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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第10章 墨の華~過ぎし日の回想録
彼女があまりにも落ち込んでいるので、真実の一部を話してしまったが、反応はいまいちよくない。
ありていに言えば『困惑』。それはそうだろう、彼女はなに一つ知らないのだから。
(僕が早計だった。
もう少し時間をかけなければ、彼女を納得させるのは難しいのだろう)
一から……どこから話せばいいのか悩むが、明解に話さなければ彼女の信用を失ってしまう。……僕にはそれが怖く感じるし、巽も同じ心境で向こうに居る。
諸事情で、巽はすぐにこちらには来られない。数日の間は僕だけが彼女の相手。
彼女がこの家から飛び出さなければという前提は付くが。
ほどほどに食事が終わり、ワインと少しの肴を残して、お手伝い達が居間を片付けて行った。
最初に言い含めてはいる。夜は構わなくてよいと。
邪魔をされないための措置……いや、これから僕のやることを邪魔して欲しくなかったともいう。
場所を少し移し、同じ居間でも独りがけの椅子が数個ならんだ窓辺近く。
彼女を窓に面した椅子にグラスを持たせたまま座らせ、僕はその横の椅子に座る。
さぁ始めよう、近くて遠い過去の話を……。
彼女を……奏多を納得させるために。
「……どこから話すべきか。始まりは巽の一言だったと思う」
「巽さんの?」
「巽が15歳だった頃、僕に向かってこう言った、『気になる子が居るんだ』と……」
たった5年、だが長い5年。僕も、巽も、奏多も、人生が変わった5年という月日。
5年前は、みな近くに居たことを奏多は知らない。