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社長息子は受付嬢を愛慕う(仮)
第10章 墨の華~過ぎし日の回想録

◇◇

5年前、巽が15歳の夏、学校から帰ってきた巽は僕を見つけ『気になる子が居るんだ』こう切り出した。
あまり女性には興味を示さなかった巽。なのに巽を惹き付けた女性はどんな女性なのか、僕なりに気になってしまったのは確か。

「僕も見てみたいね」
「聖が? 冗談だろ」
「冗談ではないよ。巽にはそう聞こえたかい?」
「いや……。
聖が見たいってんなら、朝の通学路で見れる。俺も見るだけだけど」

この頃の巽は、伊礼(イライ)の教育方針のせいか、あまり『自分の意思』というのがなかったと思う。
言われるがままに、勉学にスポーツにと暇のない生活を送っていた。
それは巽だけじゃない、僕も同じ。大学に入り将来の伊礼物産への先行投資、そう祖母に言われて育っていた頃にあたる。

あの日は朝早くに巽と一緒に家を出、通学路でも住宅の影に隠れられる場所で、巽が言う女性を待った。
そこに現れたのは、腰まであるロングヘアをひらめかせ、小顔で目鼻立ちがハッキリし、体のラインは細い学生服を着た女性……いや、この頃だと女の子と言ったほうがいいのか。

「夏目奏多。俺とは別のクラスだが、時々すれ違うことはある」
「夏目……奏多……」

兄弟の不思議というものなのか、彼女を見た瞬間一目で惹かれた。僕から見れば5歳も年下の女の子だと分かっているのに、彼女から目を離せられない。

「アタックしないのかい巽?」
「俺? 無理だろ、このナリじゃあな」

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