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私を抱いて…離さないで
第2章 人と金と…

……な、んで……
声が、息が、指先が……震える。

今、そんな事言われたら──

押し殺していた感情が溢れ、鼻を啜る音や小さな嗚咽が漏れてしまい……堪えていた涙が止めどなく、ぽろぽろと溢れて足下へと落ちていく。


『ごめんね。飛んでいくの、声だけで』
「……」
『よしよし』


優しく耳元で響く、祐輔くんの声。
目を瞑れば、直ぐ傍にいるようで……
不思議。
あんなに辛かったのに、痛みが和らいでいくのが解る。


『──あ、果穂ちゃん。そこから月見える?』
「……」

片手で涙を拭い、濡れた睫毛の先を天に向ける。

夜空に一際輝く、大きな満月。
蒼白く光るそれは、都会の汚れた空気や煌びやかな街のネオンに動じる事無く、堂々とそこにあって……

「……きれい」
『うん、綺麗だね』

穏やかで、落ち着いた声。
電話口から伝わってくる、祐輔くんの雰囲気。
まるで、直ぐ傍に祐輔くんがいて、一緒に同じ月を見上げているみたいで。
心の中がじんわりとあったかくなって、すごく、安心する……

『……良かった』
「え……」
『果穂ちゃんに、笑顔が戻ったみたいで』
「……」

見えない筈なのに。
雰囲気や声だけで、私の様子を察してくれる。
私の事を、解ってくれる。


「………うん。ありがと」


それが、何よりも嬉しくて………寂しい。

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