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私を抱いて…離さないで
第3章 パパ
「………何を騒いでる」
突然声がし、私と取り巻き達の間にヌッと現れたのは──講師の菱沼。
細縁眼鏡の奥にある、目尻の吊り上がった瞳が由美に向けられる。
その冷たく射抜くような視線に、一瞬怯んだ表情を見せた由美が、誤魔化すように口元を緩ませる。
「……やだぁ、先生。見ないでよエッチ」
「これ、うちらのじゃなくて川口さんのだから」
もしかしたら見られただろう携帯を、押し付けるようにして私に返してくる。
「別に、君らが何をしてようが私にはどうでもいい。が……ここは騒ぐ所じゃない。もう少し静かにしてくれたまえ」
「はーい」
「すみませーん」
由美ともう一人が調子のいい返事をし、サッとその場を去っていく。それを見送った菱沼は、次に私の方へと顔を向ける。
相変わらず吊り上がった目尻のせいで、冷たい印象であるものの、由美に向けたそれよりも、何故か、柔らかくて温かみを感じた。
「君も。石原由美といい、大山美紀子といい……もう少し、交遊関係は選んだ方がいい」
「……」
その瞳が僅かに細められ、柔らかな光を含む。引き込まれるように暫く目が合った後、絡んだ視線がスッと外される。
何も答えなかった私に背を向け、菱沼が何の挨拶も合図もなく去っていく。
もしかして……助けてくれた……?