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私を抱いて…離さないで
第3章 パパ
「……不思議だ」
情事の余韻を残しつつ、しんと静まり返った空気。
資料室の一角。私の隣に横たわる先生が、溜め息混じりにそう呟く。
「君のカラダは、充分感じて僕を受け入れているのに……」
「……」
「心が、それを怖がっているんだろうな」
柔らかな吐息。
先生が、私の方へと顔を向ける。間近で目が合えば、遠い方の手が伸び、私の髪をそっと撫でる。
「………安藤とは、どうなんだ?」
「……」
「君達は本当に、付き合っているのか……?」
少しだけ揶揄った瞳。
だけど、先生の意図が掴めない。
ゆっくりと瞬きをした後、黙ったまま先生をじっと見つめる。
「……」
……なんで、そんな事……
そんなの、私が知りたい。
安藤先輩とは何でもないのに──あの食堂での一件で、取り巻きの人達の疑念が確信へと変わってしまった。
そのせいでエスカレートしていく、嫌がらせ──
「野暮な事を聞いたな。……すまない」
何も答えない私に、先生が寂しそうに微笑む。
「約束の金だが……あと二万、色を付けるよ」
スッと離れていく指先。
視線を外した先生が、一線を引くように身体を起こす。
「……」
それまでの余韻はすっかり消え、事後の冷たい身体だけが残る。
取引なら、終わった。もう二度と、先生から話し掛けてくる事なんてない気がする。