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私を抱いて…離さないで
第1章 初恋の人

* * *


駅の改札をくぐり抜け、茜色に染まる空をビルとビルの隙間から眺める。
スクランブル交差点。歩行者専用の信号が一斉に青に変われば、四方八方から押し寄せる、人の波。その合間を器用に縫いながら、人々が颯爽と歩く。
それを尻目に、ぶつからないよう注意しながら左右に揺れる私は、地方出身者丸出し。
着ている服だってそう。都会に洗練されたものではないし、化粧もそれなり。というより、ほぼスッピン。

高校を卒業してすぐ、私はあの家を飛び出した。離れられるなら、別に何処だっていいと思っていた。
やれる努力はしてきたし、これからだって、そう……

大きく息を吸い込み、一歩踏み出す。
身体の大きな男性の陰に入ったからだろう。やっと流れに乗れたみたいで、ぶつかる事無く人とすれ違う。それにホッとし、向こう岸へと向かって歩く。
……と、突然。その流れが崩れてしまい、歩きスマホの男性がヌッと目の前に現れ、危うくぶつかりそうになった。

「……すみません」
「チッ、」

垢抜けた類のその人は私をひと睨みし、あからさまな舌打ちの後、通り過ぎ様、視線を再びスマホに釘付けた。

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