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兄の帰還 壁越しに聞こえる妻の嬌声
第1章 兄の帰還
琴美の心境は、僕よりもずっと複雑なはずだ。
「聞いていいのか、わからないけど。琴美はどうしたい?」
兄が帰ってくるという前日の夜、僕は思い切って聞いてみた。
「えっ!?」
琴美は、黒目勝ちの瞳を大きく開いて僕の顔を見ると、すぐに逃げるように目を逸らした。
やはりそうか……。
琴美の心の中には、まだ兄への想いが残っているに違いない。だとすれば、僕にできることは一つしかない。
「琴美が兄さんのところに戻るというのなら、僕は……」一瞬言葉に詰まったが、
「僕は、それでもいいよ」
断腸の思いで僕は言った。
もちろん本心は違う。琴美を手放したくない。でも琴美が悲しむ顔はもう見たくなかった。琴美が兄を選ぶのなら、それが一番なんだろう。
琴美は、うつむいたまま黙っていた。僕は、琴美が口を開くのを辛抱強く待った。
「聞いていいのか、わからないけど。琴美はどうしたい?」
兄が帰ってくるという前日の夜、僕は思い切って聞いてみた。
「えっ!?」
琴美は、黒目勝ちの瞳を大きく開いて僕の顔を見ると、すぐに逃げるように目を逸らした。
やはりそうか……。
琴美の心の中には、まだ兄への想いが残っているに違いない。だとすれば、僕にできることは一つしかない。
「琴美が兄さんのところに戻るというのなら、僕は……」一瞬言葉に詰まったが、
「僕は、それでもいいよ」
断腸の思いで僕は言った。
もちろん本心は違う。琴美を手放したくない。でも琴美が悲しむ顔はもう見たくなかった。琴美が兄を選ぶのなら、それが一番なんだろう。
琴美は、うつむいたまま黙っていた。僕は、琴美が口を開くのを辛抱強く待った。