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蘇州の夜啼鳥
第1章 ランタンの月
…けれど、ひとつの寝台に横たわると、いろんなものが見えてくるのだと、ぼんやりと思った。
時代掛かった紗幕が降りた天蓋を下から眺める。
いつの時代の家具なのか…
片岡の知らぬ、いにしえのこの国の歴史を知る寝台は、何を見つめてきたのだろうか…。

…隣で、暁蕾が同じように起きているのが気配で分かる。
静かな息遣いと甘い花のような薫りが、暁蕾が幽かに身動ぎするたびに、あえかに香るのだ。

片岡は静かに尋ねた。
「…眠れないの?」

「…なんだか眼が冴えてしまって…」
ひそやかな返事が返ってきた。
「体調は?熱はどう?」
無意識に手を伸ばし、額に手を当てる。
…絹のようになめらかな肌…ごく普通の温もりに、胸を撫で下ろす。
「…大丈夫です…」
やや、はにかんだ声に聞こえるのは、貌が見えないからだろうか。

…幽かな月の光以外は何もない仄暗い闇の中、暁蕾が口を開いた。

「…あの…。
少しお話ししてもいいですか?」
「…うん。起きていて大丈夫ならね」

一呼吸置いて、暁蕾は尋ねた。

「…片岡さん。
…まだ、澄佳さんのことを愛していますか…?」

…窓の外…水路の小々波の音だけが二人の間に静かに横たわっていた…。

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