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蘇州の夜啼鳥
第2章 かりそめの恋
スーツケースを締め、鍵を掛ける。
…もう、部屋を出なくては…。
そう思うのに、身体が動かない。

片岡はベッドに腰掛けて、ぼんやりとしていた。
暁蕾への恋しさは、身体中に染み付いて離れない。
…けれど…。

…これで、いいんだ…。
自分に言い聞かせる。
…暁蕾は、俺に失望したはずだ。
はっきりと断言出来なかった情けない俺を…。
…それに…。

もし、暁蕾とこのまま付き合ったとしても…。

片岡は苦い思いを噛み締める。
俺はきっと彼女を幸せにはできない。

暁蕾との年齢差もさることながら、かつて妻に自分の冷淡で傲慢な行為から不幸な事件を起こさせてしまったこと…。
そして、それにより最愛の澄佳を傷つけ、失ってしまったことをまざまざと思い出す。

…そうだ。
だから俺は、愛するひとを幸せにはできないのだ。
そして、俺は幸せになってはいけないのだ。
二人の女を不幸にしてしまった自分が、のうのうと幸せになろうなど…余りにも厚かましすぎる。
将来ある暁蕾を自分の恋人にして、それからどうするつもりだったのだ。

…結婚…?
俺に彼女にプロポーズする資格はあるのか?

もう四十代半ばを過ぎた自分が、これからまだ若い…未来の可能性に溢れた彼女を妻にして…。

苦しげに首を振る。

…いや。
また、同じことを繰り返してどうするつもりだ…。

俺は…。
…愛する女を不幸にしてしまう男なのだから…。

ため息を吐き、ベッドから立ち上がったその時…。

…部屋のチャイムが軽やかに鳴った。













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