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蘇州の夜啼鳥
第2章 かりそめの恋
「へ?」
眼を丸くする片岡に暁蕾がずかずかと歩み寄り、顎を上げた。
「へ?じゃないわ!
そうなんでしょう?貴方は!澄佳さんに似た私が好きなだけなのよ!」
美人が怒ると本当に怖いと、片岡はぼんやりと思った。

今やギャラリーと化した欧米人のツーリストたちは固唾を飲んでことの進行を見守っていた。

「あの時も貴方は否定しなかったわ!
だから、貴方は私が澄佳さんに似ていなかったら、好きにならなかったのよ!」
「…それは…」
しどろもどろになる片岡に暁蕾が更に詰め寄る。
「それは?何よ?」
追い詰められた片岡はつい語気荒く両手を広げた。
「仕方ないだろう?
ああ、そうだよ。俺は面食いなんだよ!
俺は澄佳の貌が好みだったの!
澄佳に瓜二つの君の貌も、すごくすごく好みだったんだよ!
それは事実だ!
貌じゃない、君の心に最初から惹かれたんだと言えば満足か?
…無理だろ?人の心なんか、最初は分からないんだからさ!」

暁蕾が眼を見張り、鬼のように睨みつけた。
「最低…!最低最低最低!
やっぱり貴方なんか好きになるんじゃなかったわ!」
踵を返そうとする暁蕾の肩を掴む。
「待ってくれ!
最後まで話を聞いてくれ!
確かに最初は君の貌を好きになったけれど、君は澄佳とはまるで違った。
君はお転婆で跳ねっ返りで癇癪持ちで子どもっぽくて、澄佳と似ているところはただのひとつもなかった」
暁蕾はきっと振り返り再び地団駄を踏んだ。
「よくもまあ、ずけずけと私の悪口を!」
華奢な両肩を抑え、必死で暁蕾を見つめる。
「話を聞けって!
だけど!そんな君が俺は大好きなんだよ!
澄佳とちっとも似てない…暁蕾を…そのままの暁蕾を愛しているんだ!」


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