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さすがに無理やろ
第6章 もどかしい偶然
そのジョークはスルーされたまま
俺は青山さんと
ゆっくり改札へと向かった
よほど寒いのか
青山さんの震えは止まらず
心配でしょうがない
けど
勝手に家までついて行くわけにもいかんし
ましてや
俺の家に
連れて帰るわけにもいかん
「青山さん一人暮らしか?」
「…はい」
マジか…
「こんなんで一人とか大丈夫か?」
「…慣れてるから…」
とりあえずタクシー乗り場まで到着すると
いつもの通り
タクシー乗り場には行列ができていた
「青山さん
一人で並んでられるか?」
「…はい」
「ほな、すぐに戻ってくるから
ちょっと待っててな」
俺は青山さんから離れ
目の前にあるコンビニへと走ると
おかゆ、プリン…ゼリー
菓子パン、おにぎり…のど飴…
とにかく
自分が病気した時に欲しくなりそうなものを
どんどんカゴに入れ
急いでレジを済ませた
「お待たせ、大丈夫か?」
「……はい」
「良かった、もうすぐ順番やな。
これ、適当に買うてきたから
持って帰ってな。
あ、それから…」
俺は名刺を一枚取り出して
青山さんに見せた
「コンビニの袋に名刺入れとくから
なんかあったら電話してな。
携帯書いてあるから。
あ、タクシーや
さ、乗って」
ボーッとしてる青山さんが
俺の言うてることを
どれだけ理解してたかはわからんけど
とにかく俺は
青山さんをタクシーに乗せ
名刺の入ったコンビニの袋を
青山さんの膝に乗せた
すると青山さんは
そこで俺の背広を羽織ってることを思い出したのか
「あ、これ…」
と、俺を見上げた
潤んだ目
ほどけた髪
弱々しい声
思わず抱きしめて温めて
その乾いた唇を舐めてやりたくなる
不謹慎な欲望やな
何考えてんねん
「返すんはいつでもええから持って行き。
早う元気になってな」
「……」
青山さんが
小さくうなずいたのを見届けると
俺は青山さんを乗せたタクシーが
走り去るのを見送った