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微妙なお年頃
第4章 ・・こない
文子と会ったあの日から、コズエの頭の中を常に飛び回っている
「こない」という言葉。
妊娠だとか閉経だとか、その言葉も時々、まるで
インベーダーゲームのUFOのように流れてくるが、圧倒的に多いのが「こない」。
トイレに行くたび期待する。下腹部に鈍い痛みが出るたびに期待する。
だが一向に、やってくる気配がない。
ああ、どうなってんのかしら、どうなってんのかしら…とそればかりが気になって、
拓哉との個人レッスンも気もそぞろになってしまって、
さらにそれを拓哉に指摘もされてしまった。
「なんか、今日は楽しめていないみたいね」
重ねた体を少し持ち上げた拓哉が見下ろす。
・・よかった、私が上じゃなくて。顔のたるみ、見られたもんじゃないものね・・
「ううん、そんなことない・・けど、なんたって中年だから、
体が気持ちに追いつかないこともあるのよね」
わざと疲れをにじませるような声音を出し、さらには頼りなげな眼差しで
この場を乗り切ろうと演技した。
「そんな時もあるよ。それにこれは義務じゃない、快楽なんだからさ、
無理しなくていいんだよ」
ハッキリした物言いに、これを浮気というんだなと実感した。
拓哉は、単に快楽を求めているだけだと少し彼の本心が見えた気がして、
きっと彼にとって快楽の相手はその状況にふさわしい相手なら誰でもいいのかも知れない。
そういう男の方があとくされなくていいかも、とそんなことを考えたら
ほんのわずかな時間だけど、「こない」という言葉を忘れていた。