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中西教授の独白「忘れ得ぬ女たち」
第2章 初めての女、飯島正美さん
≪独身とは知らなかった≫

小・中学生相手の文房具店は学校と同じ、日曜日は休みです。
約束した午後2時に行くと、正美さんは普段とは違って玄関前で待っていました。ネービーブルーのセーターに短めの赤いフレアスカート、それに黒いストッキングと、いつも通りの色っぽい姿、今日も「エロばばあ」です。

「いらっしゃい。さあ、上がって」と言われましたが、玄関から入るのは初めてでした。キョロキョロしながら、靴を脱いでいると、「どうしたの?」と言われてしまいました。

「あ、いえ、何でも」と私はごまかしましたが、間近で見ると、本当に色っぽくて、おまけに香水の匂いがして、何だかドキドキしてきました。

「狭いところでごめんね」と通されたのは、ノートなどを買いながら見ていた、六畳の居間でした。

「寒いからこたつに入って」
「はい」

箪笥に仏壇などが置かれ、確かに狭いと思いましたが、それより驚いたのは、店の風景が、今まで見ていたのと全く違っていることです。

棚が三列、それは勿論、同じですが、ノートや筆記用具、バインダー、ファイル類など、並んでいる場所が良く分かるようになっています。

「あれ、どこにあります?」、そう聞くと、「あっ、そこよ」と、直ぐに教えてくれた、その秘訣が分かりました。

「ふふふ、万引きなんかすると、こっちからは丸見えなのよ」

正美さんは笑っていましたが、おっしゃる通りです。

それから、ふと仏壇に目をやると、写真が飾ってありました。

「あ、それ、旦那。3年前に死んじゃったけど」

正美さんがあっさり言いました。
確かに中学3年間、一度も旦那さんの姿を見たことはありませんでしたが、独り身であることはその時に初めて知りました。

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