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第1章 失恋

「……聞かないの？」



そう言った蜂屋は、美咲との失恋エピソードを言っているのだとわかる。


そりゃ聞かなきゃ『この飲みはなんだ』って話だけど、傷を抉るのは俺としては避けたい。


俺も、受験の半年前。
高3の夏休みに、中2の時から付き合っていた彼女に浮気をされ、大失恋をしたから。


『失恋』と聞いただけで、一年も前の傷が蘇るのだから……。



「話したくなったら、勝手に話せよ。俺は聞くつもりでいるけど、聞き出す気はないから」



本当は地元の大学に行くつもりだった。なりたい職業もなかったから、普通に大学卒業して就職して、結婚するつもりだった。


でも彼女にしたら、当たり前の様に隣にいた俺は空気みたいで、もうドキドキしたりも無かったんだろう。俺だって無かったんだから。


3つ上の大学生は、魅力的だったんだろうな。二股の末、振られた俺は、志望の大学を変えた。


逃げる様に東京に出て、今も『恋人』を作る気にはなれないんだから。