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昼想夜夢~君、想ふ~
第9章 臨界点
優しくするつもりなんかなかった。
あんな女…、俺をイライラさせてばかりのあんな女、ボロボロになってしまえばいいと思ってた。
この胸の痛みの正体がわからなくて、ずっとイライラしてて不快だった。
だが、この胸の痛みに気づいた瞬間とてもじゃないが、もう―――――…。
あれから数日が経った。
彩花からの連絡はない。
彩花から俺に連絡なんかあるはずがないが…。
俺は意識的に仕事に打ち込んだ。
うちの会社は繁忙期真っ只中。
クリスマスだ年越しだでアルコールの発注依頼が山のように舞い込んでくる。
そうでなくても、いろんな店にうちの会社のアルコールを置いてもらうためにマメに営業をかけなくてはならない。
「とりあえず、午後は百貨店回りだな」
「あぁ。それと酒造元に今月の生産数の確認を…」
この時期だけはどの部署も大忙しだ。
俺も同僚と一緒に百貨店やデパート回りに追われている。
これぐらい忙しい方が余計なことを考えなくていい。
今は何も考えたくない。
思い出せば思い出すほど辛くなる。
彩花は…、俺のものじゃないと思い知る。
見て見ぬふりも、もう限界だった。
「早いよなぁ、今日からもう11月だぜ?」
「あぁ。多分この忙しさは年末まで続くだろうな。毎年の事だけど」
あちこちから聞こえるその声。
今日は…、11月1日。
今夜の0時を過ぎれば11月2日。
彩花の誕生日。
意識しないようにしても、発注書、納品書、スマホの日付表示。
どこへ行っても日付ばかりが目につく。
見たくなかった。
気付きたくなかった。
俺は、彩花を祝ってやれる立場じゃないから。
今日の日付が変わる瞬間、もしくは明日の夜。
きっと彩花は北条と一緒にいるのだろう。
そんな事、もう一ミリだって考えたくねぇよ。