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続・独占欲に捕らわれて
第4章 綻び
「おや、誰かと思ったら綾瀬さんか。こんな朝早くになにをしているんだ?」
出社してきた課長は眉間にシワを寄せながら、千聖に近づく。千聖のデスクを見ると、彼女をまじまじと見つめる。
「これは……、どういうつもりかね?」
「急なことで申し訳ないとは思いますが、私、仕事を辞めます」
千聖は職場では見せたことのない晴れやかな笑顔で、課長に辞表を渡した。

「いくらなんでも急すぎる……。ほかの社員の迷惑を……」
「そんなの、私の知ったことではありません。私は私の人生を生きていきますので。今までお世話になりました」
千聖は笑顔を崩さずにキッパリと言うと、呆然とする課長を置いてオフィスから出ていった。
「そうそう、菓子折りは課長のデスクに置いたので、皆で食べてくださいね。それじゃあ」
顔だけ出してそれだけ言うと、千聖は今度こそオフィスから出ていく。

途中でゴミカートを押す清掃員のおばさんに遭遇すると、千聖はにこやかに声をかけた。
「すいません、ゴミ捨ててもいいですか?」
「えぇ、もちろん」
おばさんは人懐こい笑顔で、ゴミカートを千聖の前に差し出す。
「ありがとうございます」
千聖がデスクにあった荷物を捨てると、おばさんはまぁ、と声を上げる。ぽかんと大口を開けたおばさんなど気にもとめず、千聖は軽い足取りで会社から出ていく。

途中ですれ違う会社員達は不思議そうに千聖を見るが、声をかける者はいない。運良く後輩達と会うこともなく、帰ることができた。
「さてと、次は……」
カバンから鍵束を取り出すと、1階を歩き回る。ただ単に余っているだけだと思って入ったことすらない部屋が、この部屋にはいくつかある。千聖は奥ばった廊下の先にあるドアを見つけると、鍵をいくつか差し込んでいく。ドアは4つ目の鍵で解錠し、千聖はゆっくりドアを開けた。

「なにこれ……」
ドアの向こう側にあったのは下へ続く階段。千聖はスマホのライトを頼りに、階段を降りていく。降りた先には1つのドアがあり、そのドアはすんなりと開いた。電気のスイッチを見つけて電気を付けるが、だだっ広いコンクリートの部屋にはなにもない。
「紅玲のことだから、地下室には色々詰め込みそうなのに……」
千聖は少し残念に思いながら、地上へ戻る。
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