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第2章 第一話【天つみ空に】　其の弐　　

　自分が何故、真吉に父の想い出話をしたのか判らない。あの万葉集の恋歌は、お逸自身、大好きなものだ。普段のお逸なら、若い男相手―それもろくに知りもしない男にあのような大胆な意味のある歌を披露したりはしない。
　だが、あのときは、どうしてか、あの歌について真吉に語りたいという気持ちがあった。随明寺の大池のほとりでは、我が身が真吉にあの歌について話したのは父の話がしたかったからだと思い込んでいたけれど、後々、落ち着いて考えてみれば、それだけの気持ちではないことは知れた。