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夜明けまでのセレナーデ
第3章 Tango Noir 〜禁じられたお伽話〜
…手紙を抱き締めたまま泣きじゃくる紳一郎を残し、薫はそっと厩舎の外に出た。

…遊歩道の先…柵に凭れた青山が薫を見つけると、人好きのする眼で笑った。

「…貴方が渡さなくていいんですか?」
わざとぶっきら棒に尋ねる。
「どうして?」
葉巻に火を点けると、青山は美味そうに一服した。
…その伊達男ぶりが少し、父様に似てるな…と思う。

「…あの手紙、貴方が軍部と内務省に掛け合って極秘に郵送させたんでしょう?
十市さんの今の任務なら、本当は手紙なんて出せないはずだもの」

青山は大袈裟に眉を跳ね上げて見せた。
「…光様のお坊っちゃまは意外に鋭いな」
「紳一郎さんのためでしょう?
貴方は本当に紳一郎さんを愛し…!」
続けようとする唇が、一瞬だけ高価な舶来葉巻の味に覆われた。

「な、何するんだよ!」
眼を白黒させる薫を可笑しそうに笑い、両手を広げた。
「秘すれば花…というだろう?」
…それに…
と、幾分しみじみとした口調で続ける。

「私は、紳一郎くんのすべての表情が見たいのだよ。
…中でも彼の一番美しい喜びの涙を…一番近くでね…」

…では、ご機嫌よう…。
青山は胸に手を当て芝居掛かったような慇懃なお辞儀をし、遊歩道を悠然と歩いていった。

「…キザなヤツ…」
薫は唇を尖らせ、呟いた。
…それからまだほの灯りの点く厩舎を振り返り、嬉し気に笑うと足早に寄宿舎に向かって走り出したのだった。
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