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夜明けまでのセレナーデ
第3章 Tango Noir 〜禁じられたお伽話〜
「…紳一郎さん…紳一郎さん…どこ?」
薫は、学院のあらゆる場所を探し回る。

冬の日暮れは早い。
…もうすっかり辺りは、深い闇に閉ざされてしまった。

…どこに行ったのかな…。
「…紳一郎さん…」

…校舎の裏手…今はその主もいない厩舎に仄かな灯りが見えた。

そっと近づき、中を伺う。

…がらんとした厩舎の中、柵に凭れかかり煙草を燻らす紳一郎の姿があった。
…紳一郎には不似合いな、安煙草の匂いがした。

「…紳一郎さん…ここにいたんですか…」
ちらりと薫を見遣り、硬い表情で背中を向ける。
ややあって無機質な声が聞こえた。
「…青山さんから、すべて聴いたんだろう?」
嘘が吐けなくて、思わず黙り込む。

「軽蔑したか?しても構わないよ。
…事実だから…。
僕は十市と青山さんと…三人でセックスをしていた。
…それで…すごく快楽を感じた…。浅ましいだろう?」
「そんなこと!」
薫を拒絶するような孤独な背中に叫ぶ。
「僕は、紳一郎さんのこと、軽蔑なんてしません!
…もしも僕が紳一郎さんだったら…もしかしたら、そういう関係を拒否出来たか…分からないって思ったんです!」
「…お子様な薫が…何を言っているんだか…」
乾いた笑いを漏らす。
薫はじれったそうに足踏みをした。
「たしかに僕はまだセックスしたことないし、多分暁人としかしたくないです。今は…。
でも…」

…ふと、遠い昔…泉とキスを交わしたことを思い出した。
今は二人の間だけに秘めた…秘密の出来事だ。

「…暁人以外に好きなひとができて…それで、そういう関係になったら…拒めるかどうか分からないな…て。
…だって、自分の心の思い通りにならないのが恋だから…」

闇の向こうから、可笑し気な笑い声が響いた。
「…破茶滅茶な理論だな。何を言ってるんだか…」
…でも…
と、ゆっくり振り向いて眼を細めた。

「…ありがとう…薫…」
薫はほっと胸を撫で下ろした。
…と、同時に肝心なことを思い出し、上着のポケットをごそごそと探った。

「あ、大事なことを…。
さっき、これが学院に届きましたよ」
粗末な茶色の封筒を差し出す。

その筆跡を見た途端、紳一郎が奪うように手紙を引ったくった。
「なんでそれを先に見せないんだ!馬鹿!」
「…すみませ…」

薫は息を飲んだ。
…紳一郎が手紙を抱き締めたまましゃがみこんだ。

「…十市…!」



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