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夜明けまでのセレナーデ
第4章 ラプンツェルと聖夜の夜啼鳥
薫についてきたカイザーが嬉しげに尻尾を振りながら、瑞葉に近づいた。
鼻を鳴らすカイザーに、瑞葉が満面の笑みを浮かべた。
「カイザー、おはよう」

人なつこいカイザーは、瑞葉にも直ぐに懐いてしまった。
動物と身近に接したことはなかったらしい瑞葉だが、今ではカイザーに会えるのを殊の外、楽しみにしているようだ。
「カイザーは本当に可愛いですね。
見かけはいかめしいけれど、大人しくて僕にもすっかり懐いてくれて…」
カイザーの頭を撫でながら貌を埋める。
「…いい匂い…。
お日様の匂いがするね、カイザー…」
無邪気に抱きしめる瑞葉は、とても薫の年上とは思えないほどにあどけなく可愛らしい。

薫は自慢げに胸を張る。
「カイザーはすごく優しくて、いいやつなんです。
…母様は馬鹿犬だっていつも怒るけど。そんなことないんです。
ちょっと母様のミンクのコートをボロボロにしたり、ちょっと母様のダイヤのティアラを庭に埋めたりしたくらいで…母様がケチなんです!
着もしない毛皮、あんなにたくさん持っているんだから少しくらいカイザーにやってもいいのに!」
…今更ながら光への怒りが湧き、憤然としてしまう薫に瑞葉は眼を見張り、楽しげに笑い出した。
くすくすといつまでも笑い続けたあと、しみじみとした口調で口を開いた。

「…羨ましいな…。
薫さんとお母様は、とても良い親子関係なのですね」
「え?ちっとも!
だって母様はいつも口煩くて僕には小言ばかりですよ。
小さな頃は、喧嘩ばかりしていました。
それで激怒されて食事抜きで部屋に閉じ込められて…。
もちろん直ぐに抜け出して、厨房に忍び込んでメイドたちと食事しましたけどね」
…それを見つかってまた鬼のように怒られたっけ…。
全く…光とは喧嘩の記憶しかない。
あの頃は毎日戦いのように喧嘩ばかりしていた。

「…いいな…。お母様と喧嘩したり、屋敷を自由に歩けたり…。
夢みたいだな…。
僕は、離れの部屋だけが自分の世界でしたから…。
僕の母は…時々、祖母の眼を盗んで様子を見に来るくらいで…。
…それも、弟が生まれてからは殆どなくなりましたし…」
瑞葉の美しい横貌が、翳りを帯び俯く。
「…瑞葉さん…」
薫は思わず口籠る。




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