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夜明けまでのセレナーデ
第4章 ラプンツェルと聖夜の夜啼鳥
「…僕はね、生まれた瞬間からあの家では災いの元…いてはならない存在だったのです…。
誰にも似ていない異端の赤ん坊…。
祖母は僕を憎み、排除しようとしました。
父は…見て見ぬ振りをしました。
母は…自分がしでかした罪の重さに怯え、僕という事実から眼を背けようとしました。
使用人たちは、僕を透明人間に仕えるように接していました。
あの広い屋敷で…僕は独りぼっちでした」
寂しい独白のような言葉が途絶えたのち、薫は遠慮勝ちに口を挟んだ。

「…八雲さんだけが…貴方の味方だったのですね」
瑞葉の琥珀色の長い睫毛がふわりと瞬かれ、薫を見上げた。

「…そうです。
八雲だけが…僕のすべてでした…」

…謎めいた夜の底知れぬ闇を纏い、この塔に密やかに訪れる冷ややかな…けれど氷の彫像のように美しい男、八雲…。
…瑞葉の腹心の執事であり、恋人であり…信じ難いが、彼の父親だという…。

「…貴方のようにすべての方から愛されて、綺麗な光の中で育たれた方には…悍ましく感じられるでしょうね…」
哀し気に微笑まれ、薫は咄嗟に首を振る。
「いいえ。
…正直、僕には分からないことが多いです…。
貴方と八雲さんの恋が正しいとは思えない気持ちも少しあります…。
でも…」

…ひとは、必ずしも正しい恋だけに巡り合うわけではないのだ。
そもそも、正しい恋などあるのだろうか…?
恋とは、ひとの心など儘ならぬ…不条理なものであるかも知れないのだ…。

…「ひとは、運命の恋には抗えないのだよ…」
紳一郎の声が蘇る…。

「…瑞葉さんが今、お幸せそうなのは分かります。
それは、八雲さんのお陰なのだということも…」

薫の言葉に、瑞葉の憂いを秘めた麗しい貌が一瞬にして輝いた。
エメラルドの瞳が、しっとりと潤み煌めいた。
「…ありがとうございます…」

それは、やはりとても美しく…清らかでさえあったのだ。


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