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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
…その日の夜半、瑞葉は再び裏扉の鍵を開けた。
カシミアのストールをすっぽり頭から被る。
軋む扉を押し開き、裏階段に足を踏み入れる。
白い素足に石畳みと夜の冷気が伝わり、思わず身震いをする。
けれどその寒ささえ、瑞葉には外の世界と交わる新たな発見と変わる。
踊り場の裏窓から見える仄白い明るさに、瑞葉は美しいエメラルドの瞳を見張った。
…雪だ…。雪が降り積もって、こんなにも明るいんだ…!
瑞葉は雪景色に魅せられたかのように、足早に階段を降りた。
階段下の重い扉に掛けられた内鍵をそっと外す。
…用心深く細く扉を開け、暫く誰もいないことを確認する。
こんな夜中…雪の降り積もる礼拝堂の裏庭に、人影などあるはずがない。
辺りは一面の銀世界…そして、樅の樹々に降り積もる雪のさらさらとした音が幽かに聞こえるだけの、世界の果てのような…けれど、とても清潔な風景だった。
安堵した瑞葉はおずおずと、夜目にも白く輝く新雪に脚を踏み出した。
「冷たい!」
思わず小さく叫ぶ。
その冷たさは初めて知る驚きであり、生きる実感を身体で感じる喜びでもあった。
瑞葉は次第に大胆にざくざくと脛まで雪に埋もれた。
…こんなに…雪は冷たかったんだ。
幼い頃から、雪は部屋の中から見ているだけの美しいものだった。
…こんなに、冷たくて、ふわふわで、どこまでも沈んでしまいそうになるなんて…!
瑞葉はまるで子どものように夢中で雪の中を歩き回った。
つんのめり、雪の中に倒れこむ。
白い手で雪を掴み、放り投げる。
漆黒の…どこまでも広がる闇の中、雪の花が幻想的に舞い落ちる。
何故だかくすくすと笑い出し、叫んだ。
「…僕は…自由だ…!」
口に出して、自分で驚く。
…自由…自由って…?
自分は囚われていると思っていたのだろうか…?
…誰に…対して…?
…不意に、背後から腕を掴まれる。
「…驚かれないでください。怪しいものではありません」
…密やかな声とともに…。
驚愕の余り、声も出ない瑞葉の瞳に飛び込んできたのは…
…長身に黒い軍服を身に纏った…まだ若い男…。
…まさか…!
瑞葉の美しいエメラルドの瞳が、信じられないように見開かれた。
「…あ、貴方は…!」
…紛れもなくあの日…礼拝堂の裏手に佇んでいた男であった。
カシミアのストールをすっぽり頭から被る。
軋む扉を押し開き、裏階段に足を踏み入れる。
白い素足に石畳みと夜の冷気が伝わり、思わず身震いをする。
けれどその寒ささえ、瑞葉には外の世界と交わる新たな発見と変わる。
踊り場の裏窓から見える仄白い明るさに、瑞葉は美しいエメラルドの瞳を見張った。
…雪だ…。雪が降り積もって、こんなにも明るいんだ…!
瑞葉は雪景色に魅せられたかのように、足早に階段を降りた。
階段下の重い扉に掛けられた内鍵をそっと外す。
…用心深く細く扉を開け、暫く誰もいないことを確認する。
こんな夜中…雪の降り積もる礼拝堂の裏庭に、人影などあるはずがない。
辺りは一面の銀世界…そして、樅の樹々に降り積もる雪のさらさらとした音が幽かに聞こえるだけの、世界の果てのような…けれど、とても清潔な風景だった。
安堵した瑞葉はおずおずと、夜目にも白く輝く新雪に脚を踏み出した。
「冷たい!」
思わず小さく叫ぶ。
その冷たさは初めて知る驚きであり、生きる実感を身体で感じる喜びでもあった。
瑞葉は次第に大胆にざくざくと脛まで雪に埋もれた。
…こんなに…雪は冷たかったんだ。
幼い頃から、雪は部屋の中から見ているだけの美しいものだった。
…こんなに、冷たくて、ふわふわで、どこまでも沈んでしまいそうになるなんて…!
瑞葉はまるで子どものように夢中で雪の中を歩き回った。
つんのめり、雪の中に倒れこむ。
白い手で雪を掴み、放り投げる。
漆黒の…どこまでも広がる闇の中、雪の花が幻想的に舞い落ちる。
何故だかくすくすと笑い出し、叫んだ。
「…僕は…自由だ…!」
口に出して、自分で驚く。
…自由…自由って…?
自分は囚われていると思っていたのだろうか…?
…誰に…対して…?
…不意に、背後から腕を掴まれる。
「…驚かれないでください。怪しいものではありません」
…密やかな声とともに…。
驚愕の余り、声も出ない瑞葉の瞳に飛び込んできたのは…
…長身に黒い軍服を身に纏った…まだ若い男…。
…まさか…!
瑞葉の美しいエメラルドの瞳が、信じられないように見開かれた。
「…あ、貴方は…!」
…紛れもなくあの日…礼拝堂の裏手に佇んでいた男であった。