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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
それから数日も平穏無事に時間は過ぎた。
薫や紳一郎の様子も普段と何ら変わることはなかった。
八雲の訪問がまた遅れることを、彼らは申し訳なさげに伝えてくれた。

八雲…もしかして、僕の食料や身の回りの品を確保するのに苦労しているのではないだろうか…。
世間知らずの瑞葉でも食料が困窮する昨今、こんなに豊富で贅沢な食料や嗜好品を切らさずに確保することがどれだけ大変なことなのか、充分に察していた。

…篠宮の屋敷では、下僕やメイドも兵隊に取られたり、軍需工場に徴用されたりと人少なになっている。
八雲は瑞葉の祖母で絶対的な権力を握っている薫子の大のお気に入りだ。薫子は、彼が屋敷を離れることを殊の外嫌がるのだ。

…ここに来るのも夜中に限られているし…それも今は難しいのかもしれない…。

瑞葉の弟の和葉が海軍に入隊し、薫子の嘆きはあまりに深かった。
その心の穴を埋めようとするかのように、薫子は八雲への執着を募らせたのだ。

八雲は忠誠心の厚い執事だ。
薫子の瑞葉への処遇に対して、時にははっきりと意見することもあったが、今は戦時下である。
おまけに八雲には瑞葉を抑留地には送らずに密かに匿っているという秘密がある。
それを暴かれないためにも、薫子に不審がられるわけにはいかないのだ。

…だから、八雲が暫く来られないのは仕方ない…。
仕方ないけれど…。

瑞葉はそっとため息を吐いた。

…やっぱり…僕はひとりなんだな…。

瑞葉は己れの華奢な肩を抱く。

…寂しい…。

…すべてを捧げても構わないほど愛おしい…氷のような美貌を持つ男に身も心も激しく愛されているというのに…。

なぜだか分からないけれど寂しくて、寂しくて、たまらない…。


瑞葉の心は降り積もる雪のようにしんと冷え、例えようもない…そして途方も無い孤独を一人、噛み締めるのだった。

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