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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
思わぬ名前が男の唇から発せられ、瑞葉は瞬きを繰り返す。
なぜ、弟・和葉の名前が…?
「え?…和葉から…?
…どういうことですか…?」
「私は速水英介と申します。
憲兵隊本部に所属する少佐です。」

「…憲…兵…?」
…一番警戒しなくてはならない相手ではないか…。
でも、和葉に僕のことを頼まれた…て、どういう意味なのだろうか…。
混乱と不安のあまり、心臓が苦しくなる。
息を喘がせるように細い肩が上下する。

速水と名乗った男は眉を顰めると、有無を言わさずに雪上に座り込む瑞葉を軽々と抱き上げた。

「な、何をなさるんですか⁈」
狼狽する瑞葉を見下ろし、端的に告げる。
「お部屋までお連れします。
このままでは貴方が凍死する。
…詳しいお話は中で…。
よろしいですね?」

エメラルドの瞳が、困惑に見開かれる。
…この男を、あの塔の部屋に…?
そんな危険なことを…

瑞葉の胸の内を読み取ったかのように、速水は言葉を重ねた。

「私を信じてください。
貴方に危害など加えません」

…黒く輝く瞳は端正に澄んでいて誠実に見えた。

瑞葉は小さく頷いた。
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