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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
速水との性の交わりは初めてだと言うのに、瑞葉は最初から快楽を与えられた。
驚くほどに、深い快感を得た。
快感を覚えたことに驚くと同時に、瑞葉は己れの身体を恥じた。
…快楽に弱い身体…
いやらしい…穢らわしい…淫らな身体…。

性交により、快楽を得られるのは八雲だけだと思っていた。
彼だから、感じられるのだと…。
愛しているからだと…。
けれど、違った。

…八雲の齎らす暗く湿った沼の底のような爛れた快楽とは正反対の、温かな光の中で交わるような新鮮な快楽を、速水からは与えられた。
「…愛している…」
速水は口づけのたびに繰り返した。

「…可愛い…ああ…なんて可愛いひとなんだ…。
こんなに美しく清らかで…それなのに艶めかしい…。
…もう…離れられない…。離れたくない…」
清潔な青年らしい率直さで、速水は愛を語った。
熱く甘い言葉が、瑞葉の傷ついた胸の中に静かに染み入る。

「…僕は…あのひとに…実の父親に抱かれたのですよ…。
穢らわしいと思わないのですか…?」
その言葉に、やや怒ったように抱き寄せられた。
「穢らわしいなど思うはずがありません。
…貴方は、犠牲者ですよ。
貴方は何も悪くない。
貴方は美しいままだ。
何も穢されていません。
…眩しいくらいに、綺麗ですよ…」

…速水の誠実な言葉に、胸が締め付けられる。
心のまま…涙を流していると、優しく髪を撫でられ抱きしめられた。
「…私のことを、好きですか…?」
不安そうに尋ねられ、小さく頷いた。
「…好きに…なっています…きっと…」
暖かな太陽が差したように速水が笑った。
「充分です」

…寝台の中、逞しい男の胸に、抱き寄せられる。
「…貴方を私の自宅にお迎えいたします。
…軽井沢の居留地では、遠すぎる…。
…それに…他の人間に貴方を晒したくない」
照れたように微笑む速水に、瑞葉は薄桃色の唇を噛み締める。
「…でも…僕はまだ…」
…まだ、八雲のことを…
言いかけた唇を、キスで塞がれた。
「…私が忘れさせて差し上げます。
貴方のことを幸せにするのは、私です」

…不意に、雪の王国さながらの風が寝台の紗幕を激しく揺らした。

「…これはこれは…とんでもない命知らずなロミオがいたものですね」

振り返り、瑞葉が叫んだ。
「…八雲…!」

…扉の前…黒いマントを纏った黒い人影が、ランプの幽かな灯りに浮かび上がった。



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