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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
ランプの灯りにきらりと光る瑠璃色の瞳が瑞葉を見つめ、優しく微笑む。
「…瑞葉様、私の不在でお寂しかったのですか?
少々おいたが過ぎましたね。
…ああ、そうではありませんね。
その男に脅されたのでしょう。
貴方は、余りに美しすぎる。
貴方の人外な美しさと例えようのない色香に、この哀れなロミオは心を狂わされてしまったのでしょう。
だから道を間違えてしまったのです。
貴方を脅迫し…貴方を手篭めにした。
酷い話です。
…でも、もう大丈夫です。
私が助けて差し上げますよ」

…美しいベルベットのような艶のある…それでいてひんやりとした声が穏やかに告げる。
男は優雅な所作で、ゆっくりと寝台に近づいた。
こつこつと無機質な靴音が室内に響き渡る。

「…八雲…!」
息を呑む瑞葉を、速水が無言で抱きしめる。
「大丈夫です。瑞葉さん。
…私がついています」
速水が瑞葉の耳元に安心させるように囁く。

八雲が初めて不快そうにその端麗な眉を顰めた。
「…躾の悪い番犬が寝台に入り込んだようだ。
…さあ、瑞葉様。こちらにおいでください」

差し出された黒革の手袋に包まれた手に、瑞葉は強張った貌で首を振る。
「…い…や…。来ないで…」
「…瑞葉様。私は貴方を叱ったりいたしません。
何も怖がらなくて、良いのですよ…さあ…」
…私のところにおいでなさい…。

瑞葉は生まれてこのかた、八雲の差し出された手を拒んだことは一度たりてなかった。
八雲の手は、絶対の存在だった。
八雲は、すべてだった。
八雲は、正義だった。

…今までは…。

…けれど…

「…来ないで…。八雲」
震える小さな声が、きっぱりと告げた。

…この世のどの青色より美しい瑠璃色の瞳が、信じ難いように眇められた。
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