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夜明けまでのセレナーデ
第5章 裏窓〜禁じられた恋の唄〜
「瑞葉さん!瑞葉さん!大丈夫ですか⁈何があったのですか⁈」
火事の知らせを聞いた薫が、紳一郎とともに礼拝堂に駆けつけた時、瑞葉は茫然と雪の上に座り込み、燃え盛る塔を見上げていた。
…ぞっとするほどに美しい横貌が炎に照らされていた。
深い闇色に包まれた夜空が、赫々と燃える塔の火の手に禍々しく染められている。
…瑞葉の傍らには、見慣れない若い男がいる。
男は、瑞葉を庇うように抱きしめていた。
訳が分からない。
一体、何が起こったのか?
…瑞葉が譫言のように口にした言葉に、二人は仰天した。
「…八雲が…八雲が…中に…」
「何ですって⁈」
薫が駆け出そうとするのを、若い男が止めた。
「無理です。火の回りが早くて…。
私たちですら間一髪逃げだせたのです…」
消防隊が到着するには早くても数十分はかかるだろう。
学院の職員たちは、寮生を避難させるのに慌ただしい。
辺りの喧騒の中、四人は茫然と燃え盛る塔を見つめていた。
…もはや、為す術はないのかと薫は唇を噛み締める。
瑞葉が塔を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「…逃げ出せても…八雲は助かりません…」
「え…?」
「…僕が…僕が…八雲を…刺したから…」
紳一郎の貌色が変わった。
「瑞葉さん⁈」
「僕が八雲を殺したのです…!」
そう絞り出すように叫ぶと、瑞葉は雪の上に泣き崩れた。
若い男が瑞葉を強く抱きしめた。
「貴方のせいではありません…!
彼は…彼は自分ですべてを終わらせたのです!」
「なぜ…なぜ八雲さんを…⁈」
…あんなに愛し合っていたのに…!
薫が問いかけた時…
一際大きな炎が燃え上がり、激しい爆発音が辺りに響いた。
「危ない!塔が崩れるぞ!」
学院の職員が叫んだ。
がらがらと、呆気なく脆く古い石造りの塔が炎と煙を撒き散らしながら崩れ落ちてゆく。
「八雲…八雲!八雲!」
雪の上からふらふらと立ち上がり、瑞葉が塔に駆け寄ろうとする。
傍らの男が胸に抱き込み、叫んだ。
「見るな!見ては駄目だ!」
「離して…!八雲…八雲が…!」
狂ったようにもがく瑞葉を男が羽交い締めにする。
男は瑞葉の白い耳朶に、まじないを掛けるかのように語りかけた。
「彼は死んだのです。
貴方が囚われていた檻はもうないのです。
…貴方は…自由だ…!」
瑞葉は絶句し、そののちふわりと意識を失い、雪の上に崩れ落ちたのだった。
火事の知らせを聞いた薫が、紳一郎とともに礼拝堂に駆けつけた時、瑞葉は茫然と雪の上に座り込み、燃え盛る塔を見上げていた。
…ぞっとするほどに美しい横貌が炎に照らされていた。
深い闇色に包まれた夜空が、赫々と燃える塔の火の手に禍々しく染められている。
…瑞葉の傍らには、見慣れない若い男がいる。
男は、瑞葉を庇うように抱きしめていた。
訳が分からない。
一体、何が起こったのか?
…瑞葉が譫言のように口にした言葉に、二人は仰天した。
「…八雲が…八雲が…中に…」
「何ですって⁈」
薫が駆け出そうとするのを、若い男が止めた。
「無理です。火の回りが早くて…。
私たちですら間一髪逃げだせたのです…」
消防隊が到着するには早くても数十分はかかるだろう。
学院の職員たちは、寮生を避難させるのに慌ただしい。
辺りの喧騒の中、四人は茫然と燃え盛る塔を見つめていた。
…もはや、為す術はないのかと薫は唇を噛み締める。
瑞葉が塔を見上げながら、ぽつりと呟いた。
「…逃げ出せても…八雲は助かりません…」
「え…?」
「…僕が…僕が…八雲を…刺したから…」
紳一郎の貌色が変わった。
「瑞葉さん⁈」
「僕が八雲を殺したのです…!」
そう絞り出すように叫ぶと、瑞葉は雪の上に泣き崩れた。
若い男が瑞葉を強く抱きしめた。
「貴方のせいではありません…!
彼は…彼は自分ですべてを終わらせたのです!」
「なぜ…なぜ八雲さんを…⁈」
…あんなに愛し合っていたのに…!
薫が問いかけた時…
一際大きな炎が燃え上がり、激しい爆発音が辺りに響いた。
「危ない!塔が崩れるぞ!」
学院の職員が叫んだ。
がらがらと、呆気なく脆く古い石造りの塔が炎と煙を撒き散らしながら崩れ落ちてゆく。
「八雲…八雲!八雲!」
雪の上からふらふらと立ち上がり、瑞葉が塔に駆け寄ろうとする。
傍らの男が胸に抱き込み、叫んだ。
「見るな!見ては駄目だ!」
「離して…!八雲…八雲が…!」
狂ったようにもがく瑞葉を男が羽交い締めにする。
男は瑞葉の白い耳朶に、まじないを掛けるかのように語りかけた。
「彼は死んだのです。
貴方が囚われていた檻はもうないのです。
…貴方は…自由だ…!」
瑞葉は絶句し、そののちふわりと意識を失い、雪の上に崩れ落ちたのだった。