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夜明けまでのセレナーデ
第6章 Le Fantôme de l'Opéra
…ホワイエは、嘘のように静まり返っていた。
煌びやかな七トンものシャンデリアは、シャガールの絵が描かれた天井から吊り下げられ、柔らかな灯りを灯していた。
正面の大階段は無人で、美しい緋色の絨毯が花道のように伸びていた。
…それにしても、ひとが一人もいないなんて…。
不気味な感覚に襲われ、瑞葉は背中を震わせる。
本能的な恐怖から、ホワイエを出ようと踵を返した。
…その刹那…。
大階段の頂上から、端正な靴音が聞こえてきた。
瑞葉は凍りついたように脚を止めた。
…あの…靴音…。
身体が金縛りにあったかのように、動けない。
靴音は次第に近づいてくる。
…まさか…
そんな…馬鹿な…。
…夢だ…自分は今、夢を見ているのだ。
自分に言い聞かせ、きつく眼を閉じる。
靴音は、最後の階段を降り始める。
…あの靴音…
忘れる筈がない…
忘れられる筈がない…
…聞き覚えのある靴音は、やがて瑞葉の背後で静かに止まった。
…振り向いてはならない。
振り向いては…
「…瑞葉様…」
…幻聴のような…美しい忘れがたい声が、瑞葉の鼓膜を震わせる。
…振り向いては、だめだ…だめだ…。
振り向いたら…
意思とは無関係に、何かに操られているかのように身体が動く。
振り向いたその先に佇む男の端麗な美貌が、エメラルドの瞳に幻燈のように映し出される。
…冷涼とした瑠璃色の瞳が、幽かに微笑んだ。
…あの日の言葉の続きが、その唇から零れ落ちる。
…「…私は、貴方を…」
…愛しております…
…誰よりも…
「…八雲…!」
…震える薔薇色の唇が、永遠の恋人を呼ぶように叫び、その白い手が男へと差し伸べられた…。
煌びやかな七トンものシャンデリアは、シャガールの絵が描かれた天井から吊り下げられ、柔らかな灯りを灯していた。
正面の大階段は無人で、美しい緋色の絨毯が花道のように伸びていた。
…それにしても、ひとが一人もいないなんて…。
不気味な感覚に襲われ、瑞葉は背中を震わせる。
本能的な恐怖から、ホワイエを出ようと踵を返した。
…その刹那…。
大階段の頂上から、端正な靴音が聞こえてきた。
瑞葉は凍りついたように脚を止めた。
…あの…靴音…。
身体が金縛りにあったかのように、動けない。
靴音は次第に近づいてくる。
…まさか…
そんな…馬鹿な…。
…夢だ…自分は今、夢を見ているのだ。
自分に言い聞かせ、きつく眼を閉じる。
靴音は、最後の階段を降り始める。
…あの靴音…
忘れる筈がない…
忘れられる筈がない…
…聞き覚えのある靴音は、やがて瑞葉の背後で静かに止まった。
…振り向いてはならない。
振り向いては…
「…瑞葉様…」
…幻聴のような…美しい忘れがたい声が、瑞葉の鼓膜を震わせる。
…振り向いては、だめだ…だめだ…。
振り向いたら…
意思とは無関係に、何かに操られているかのように身体が動く。
振り向いたその先に佇む男の端麗な美貌が、エメラルドの瞳に幻燈のように映し出される。
…冷涼とした瑠璃色の瞳が、幽かに微笑んだ。
…あの日の言葉の続きが、その唇から零れ落ちる。
…「…私は、貴方を…」
…愛しております…
…誰よりも…
「…八雲…!」
…震える薔薇色の唇が、永遠の恋人を呼ぶように叫び、その白い手が男へと差し伸べられた…。