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夜明けまでのセレナーデ
第7章 Fantôme de l'Opéra 〜epilogue〜
初夏の夕暮れはいつまでも部屋に温かな陽射しをもたらす。
開け放たれた窓からは、中庭に植えられたミモザの花の甘く柔らかな陽だまりのような香りが仄かに漂った。
重苦しい沈黙ののち、口を開いたのは速水だった。
意外なほどに、それは穏やかな口調であった。
「…ねえ、ジュリアン…。
僕はね、本当のところ…あんまり驚いてはいないんですよ」
「…え?」
訝しげに眉を顰める。
「…もちろん八雲が現れたことは青天の霹靂だったけれど、心の何処かで…やはりと思った自分がいるんです」
「…ハヤミ…」
「…あの日、僕はオペラ座のロビーで瑞葉を待ち続けました。
芝居が始まっても現れない瑞葉を待ちながら、もしかして…という禍々しい閃きが胸の中に浮かび、消えなかった。
そうして翌日、瑞葉の級友に話を聞いて…ああ、やはり…という想いをせずにはいられなかったのです。
…いつか、こんな日が来るのではないかという恐れと予感が現実になってしまったのだと…」
尋ねることは残酷だと思いつつ、ジュリアンは口を開いた。
「…瑞葉から連絡は?」
密やかなため息混じりに、首を振る。
「何もありません」
…何も…
「まるで…ファントムに攫われて、消えてしまったかのように、何も…」
速水の眼差しが、ここではない…彼方を彷徨うかのように、瞬いた。
開け放たれた窓からは、中庭に植えられたミモザの花の甘く柔らかな陽だまりのような香りが仄かに漂った。
重苦しい沈黙ののち、口を開いたのは速水だった。
意外なほどに、それは穏やかな口調であった。
「…ねえ、ジュリアン…。
僕はね、本当のところ…あんまり驚いてはいないんですよ」
「…え?」
訝しげに眉を顰める。
「…もちろん八雲が現れたことは青天の霹靂だったけれど、心の何処かで…やはりと思った自分がいるんです」
「…ハヤミ…」
「…あの日、僕はオペラ座のロビーで瑞葉を待ち続けました。
芝居が始まっても現れない瑞葉を待ちながら、もしかして…という禍々しい閃きが胸の中に浮かび、消えなかった。
そうして翌日、瑞葉の級友に話を聞いて…ああ、やはり…という想いをせずにはいられなかったのです。
…いつか、こんな日が来るのではないかという恐れと予感が現実になってしまったのだと…」
尋ねることは残酷だと思いつつ、ジュリアンは口を開いた。
「…瑞葉から連絡は?」
密やかなため息混じりに、首を振る。
「何もありません」
…何も…
「まるで…ファントムに攫われて、消えてしまったかのように、何も…」
速水の眼差しが、ここではない…彼方を彷徨うかのように、瞬いた。