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夜明けまでのセレナーデ
第8章 新たなる運命
「父様!お帰りなさい!」
父、礼也の車が屋敷の車寄せに入った気配で、薫は部屋を飛び出した。
大階段を駆け下りエントランスに着くのと、礼也が泉に出迎えられて、姿を現したのは同時だった。
礼也は、薫の大好きな朗らかな笑顔で笑いかけ、長い両手を広げた。
「ただいま。薫…」
「父様!」
子どものように父に抱きつく。
「会いたかったよ。薫…。元気だったか?」
頑丈な胸に抱き込み、揺すってくれる仕草は昔のままだ。
五十路を迎えたとは、とても思えない引き締まった体躯、堂々とした…それでいて洗練された物腰…。
着ているスーツは、このままオペラ観劇でも出来そうなほどに品良く、洒落ている。
…加えて、懐かしいハバナ産葉巻の匂いと愛用のトワレも…
あの酷い惨めな戦争でも、父の美学は奪えなかったのだ。
それが堪らなく嬉しい。
子どもの頃のように、甘えた仕草で父の頰に頬摺りをする。
「…汽車の煤で汚れるぞ?」
礼也の戯けた声に、ぎゅっと抱きつく。
「いい。父様の煤なら」
二人は貌を見合わせて笑った。
…戦争は、本当に終わったのだ…。
薫は、心地よい安堵感に包まれながら実感をした。
父、礼也の車が屋敷の車寄せに入った気配で、薫は部屋を飛び出した。
大階段を駆け下りエントランスに着くのと、礼也が泉に出迎えられて、姿を現したのは同時だった。
礼也は、薫の大好きな朗らかな笑顔で笑いかけ、長い両手を広げた。
「ただいま。薫…」
「父様!」
子どものように父に抱きつく。
「会いたかったよ。薫…。元気だったか?」
頑丈な胸に抱き込み、揺すってくれる仕草は昔のままだ。
五十路を迎えたとは、とても思えない引き締まった体躯、堂々とした…それでいて洗練された物腰…。
着ているスーツは、このままオペラ観劇でも出来そうなほどに品良く、洒落ている。
…加えて、懐かしいハバナ産葉巻の匂いと愛用のトワレも…
あの酷い惨めな戦争でも、父の美学は奪えなかったのだ。
それが堪らなく嬉しい。
子どもの頃のように、甘えた仕草で父の頰に頬摺りをする。
「…汽車の煤で汚れるぞ?」
礼也の戯けた声に、ぎゅっと抱きつく。
「いい。父様の煤なら」
二人は貌を見合わせて笑った。
…戦争は、本当に終わったのだ…。
薫は、心地よい安堵感に包まれながら実感をした。