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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
扉の前に腕を組んで、やや不機嫌そうに佇んでいるのは、光たちと共に軽井沢の別荘に疎開している筈の風間司…そのひとであった。
…明るい亜麻色の長めの髪にミルクのように白い肌、琥珀色の瞳、細い鼻梁、艶やかな唇…。
白い麻の洒落た半袖シャツに、涼しげな藍色の細かな格子模様のパンツ…。白く華奢な素足には如何にも高価そうな臙脂色の革靴…。
…おおよそ、敗戦後の日本人とは似つかわしくない洗練された服装だ。
純粋の日本人なのだが、何故か日本人離れした西洋人形のように美しい容姿をした青年は、泉を睨みつけるように立っていた。
「司様!なぜこちらに⁈
まだ東京は治安が悪いから、しばらくは軽井沢にいらしてくださいとお手紙をお送りしたばかりではありませんか!」
狼狽したように近づく泉に、美しい瞳できつい視線を送る。
青年は腹立たしげにその逞しい腕を引き寄せた。
「うるさい!馬鹿!」
罵倒したその唇は次の瞬間、泉の唇に押し付けられた。
「…愛しているからに決まっているだろう?馬鹿…」
憎まれ口とは裏腹に、甘い言葉が溢れ落ちる。
「…司様…」
泉の唇から漏れたのは、拒絶ではなく切なく…愛おしげな声であった。
「司…だよ、泉…。
…会いたかった…。
一年以上も会えなくて…寂しかった…」
司の声が震え出し…けれどそれは直ぐに甘く濡れた吐息へと変わった…。
泉のやや肉惑的な唇が、司の形の良い唇を荒々しく奪ったのだ。
「…司…。
愛している…。
…俺も会いたかった…」
「…泉…愛してる…愛してる…」
…美しい恋人たちの甘く濃密な愛の抱擁を邪魔しないように、薫はそっと階段下の使用人の部屋に姿を消した。
「あら?薫様?何かご用ですか?」
階段の踊り場にいた梅琳が不思議そうに尋ねた。
「ああ、メイリン。
今は階上に行かない方がいいな。
…そうだ。下のキッチンでレモネードを入れてくれないか?
カイザーにもおやつを頼むよ」
そう言って、薫はにっこりと笑ったのだった。
…明るい亜麻色の長めの髪にミルクのように白い肌、琥珀色の瞳、細い鼻梁、艶やかな唇…。
白い麻の洒落た半袖シャツに、涼しげな藍色の細かな格子模様のパンツ…。白く華奢な素足には如何にも高価そうな臙脂色の革靴…。
…おおよそ、敗戦後の日本人とは似つかわしくない洗練された服装だ。
純粋の日本人なのだが、何故か日本人離れした西洋人形のように美しい容姿をした青年は、泉を睨みつけるように立っていた。
「司様!なぜこちらに⁈
まだ東京は治安が悪いから、しばらくは軽井沢にいらしてくださいとお手紙をお送りしたばかりではありませんか!」
狼狽したように近づく泉に、美しい瞳できつい視線を送る。
青年は腹立たしげにその逞しい腕を引き寄せた。
「うるさい!馬鹿!」
罵倒したその唇は次の瞬間、泉の唇に押し付けられた。
「…愛しているからに決まっているだろう?馬鹿…」
憎まれ口とは裏腹に、甘い言葉が溢れ落ちる。
「…司様…」
泉の唇から漏れたのは、拒絶ではなく切なく…愛おしげな声であった。
「司…だよ、泉…。
…会いたかった…。
一年以上も会えなくて…寂しかった…」
司の声が震え出し…けれどそれは直ぐに甘く濡れた吐息へと変わった…。
泉のやや肉惑的な唇が、司の形の良い唇を荒々しく奪ったのだ。
「…司…。
愛している…。
…俺も会いたかった…」
「…泉…愛してる…愛してる…」
…美しい恋人たちの甘く濃密な愛の抱擁を邪魔しないように、薫はそっと階段下の使用人の部屋に姿を消した。
「あら?薫様?何かご用ですか?」
階段の踊り場にいた梅琳が不思議そうに尋ねた。
「ああ、メイリン。
今は階上に行かない方がいいな。
…そうだ。下のキッチンでレモネードを入れてくれないか?
カイザーにもおやつを頼むよ」
そう言って、薫はにっこりと笑ったのだった。