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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「お帰りなさいませ。
…薫様、大紋様のところで、何かございましたか?」
玄関で出迎えた泉は、薫の貌を見るなり、眉を顰めた。
「…うん?なんで分かるの?」
泉の勘の良さには驚かされる。
「私は薫様がお生まれになられた時から、ずっとおそばでお仕えしているのですよ。
薫様のお貌を見ただけで、何かあったのか直ぐに分かるのです」
男らしい温かな笑顔に、薫は思わず吸い寄せられるようにその胸に抱きついた。
「薫様?」
…逞しい制服の胸は温かく、清潔なシャボンと…そして微かに薄荷煙草の香りがする。
「…すこし…こうしていてもいい?」
子どものように鼻先を押し付ける薫の背中を、大きな手が柔らかく抱く。
「…はい。お好きなだけ…」
…まるで幼な子を宥めるように、泉は静かに薫を抱きしめてくれた。
ぽつりぽつりと胸の内を話し出す。
「…絢子小母様が…変わってしまわれていた…。
いつもの小母様ではなかった…。
…暁人を…待っているうちに…小母様は、心を病んでおしまいになったんだ…
…僕は…知らなかった…」
「…そうだったのですか…」
…頼もしく、優しい泉の声…。
薫は泣き出しそうになるのをぐっと堪えて、貌を上げる。
「…僕は…暁人が生きて帰ってくると信じている。
絶対だ。
…だから、信じて待ち続ける」
…何年かかっても、待ち続ける。
だって、僕と暁人の恋はまだ始まってもいないんだから…。
「はい。私も信じております。
暁人様は、必ず薫様の元にお帰りになります」
優しい手付きで髪を撫でられ、溢れ出る熱い想いを封じ込めるように瞼をぎゅっと閉じる。
「…泉…」
もう一度、その胸に抱きついた時…。
…思わぬ闖入者のやや冷めた声が響いてきた。
「…相変わらず溺愛しているんだね。薫くんを…。
恋人の僕をほったらかしてさ。
全く、いい度胸だ」
泉がはっと振り返る。
「司様…!」
…薫様、大紋様のところで、何かございましたか?」
玄関で出迎えた泉は、薫の貌を見るなり、眉を顰めた。
「…うん?なんで分かるの?」
泉の勘の良さには驚かされる。
「私は薫様がお生まれになられた時から、ずっとおそばでお仕えしているのですよ。
薫様のお貌を見ただけで、何かあったのか直ぐに分かるのです」
男らしい温かな笑顔に、薫は思わず吸い寄せられるようにその胸に抱きついた。
「薫様?」
…逞しい制服の胸は温かく、清潔なシャボンと…そして微かに薄荷煙草の香りがする。
「…すこし…こうしていてもいい?」
子どものように鼻先を押し付ける薫の背中を、大きな手が柔らかく抱く。
「…はい。お好きなだけ…」
…まるで幼な子を宥めるように、泉は静かに薫を抱きしめてくれた。
ぽつりぽつりと胸の内を話し出す。
「…絢子小母様が…変わってしまわれていた…。
いつもの小母様ではなかった…。
…暁人を…待っているうちに…小母様は、心を病んでおしまいになったんだ…
…僕は…知らなかった…」
「…そうだったのですか…」
…頼もしく、優しい泉の声…。
薫は泣き出しそうになるのをぐっと堪えて、貌を上げる。
「…僕は…暁人が生きて帰ってくると信じている。
絶対だ。
…だから、信じて待ち続ける」
…何年かかっても、待ち続ける。
だって、僕と暁人の恋はまだ始まってもいないんだから…。
「はい。私も信じております。
暁人様は、必ず薫様の元にお帰りになります」
優しい手付きで髪を撫でられ、溢れ出る熱い想いを封じ込めるように瞼をぎゅっと閉じる。
「…泉…」
もう一度、その胸に抱きついた時…。
…思わぬ闖入者のやや冷めた声が響いてきた。
「…相変わらず溺愛しているんだね。薫くんを…。
恋人の僕をほったらかしてさ。
全く、いい度胸だ」
泉がはっと振り返る。
「司様…!」