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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
…「僕は学院に戻るよ。
今夜は寮に泊まる。
絹さんのことをくれぐれも頼んだよ」
そう言うと、薫は泉が止めるのも構わずに、屋敷を後にした。



「…また薫くんのことを考えてる」
司が拗ねたように泉の腕を抓りあげた。
「痛っ!」
「僕が帰ってきて、嬉しくないの?」
階下の泉の部屋に半ば強引に入ってきた司はさっきから機嫌が悪い。

…無理もない。
帰宅後早々に、薫との抱擁を目の当たりにしたのだから…。
泉と薫との関係を疑っているわけではないだろうが、心穏やかではないはずだ。

…相変わらず、我儘で生意気な…けれどとびきり美しく高慢な猫みたいだ。
心の中にはじわりじわりとこの美しい膨れっ面の青年への愛おしさが滲み出る。

「…薫様が気を利かせてお帰りになったから、心配していただけだよ。
…今は、司のことしか考えていない」
そう優しく語りかけ、そのか細い肩を引き寄せる。
「…あ…」
泉の大きくがっしりした手が、愛おしげにその白絹のように滑らかで美しい貌を持ち上げる。

「…会いたかった…。司…。
もっとよく貌を見せてくれ」

…会いたくて会いたくて堪らず…ずっと思い続けていた愛おしい恋人が今、自分の腕の中にある…。
まるで、奇跡のようだ…。

「…泉…」
潤んだ琥珀色のアーモンド型の瞳が、泉を切なげに見上げた。
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