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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
…帰り道…。
車で送るという大僧正の申し出を断り、絹は龍介と家路を辿っていた。
二人は始終無言であった。

…私が…陛下の子ども?

ありえない…。
そんな…何かの間違いだわ…。
信じられず、思わず首を振る。

「…絹は…姫宮様だったんだな…」
ぽつりと、どこか寂しげに龍介が呟いた。
「…龍ちゃん…」
振り返る龍介の眼差しは優しかった。
「道理でな。絹ちゃんはただの寺の子どもにしてはお姫様みたいに気品があるって、親父もお袋もずっと言っていた。
…俺も…。
絹はなんだかかぐや姫みたいな女の子だって…そう思ってた…。
まさか、本当にお姫様だったなんてな…」
…俺とは無縁の世界のひとだな…。
ひどく寂しそうにそう付け足した。

「そんなことない!私は私よ。
今も昔も変わらないわ。
…私…ずっと龍ちゃんが…」
「…絹…」
龍介がはっとした表情で絹に向き直る。
熱く強い瞳に見つめられ、絹は惹き寄せられるようにその広く逞しい胸に飛び込んだ。

「…好き…龍ちゃんが好き…ずっと好き…!」
女からこんな告白をするなんて、はしたないことだと思いながらも、龍介への想いを口にした途端、愛おしさが泉のように湧き出てくる。
…そうだ…。私は、龍ちゃんが好きだったんだ。
ずっと、ずっと、好きだったんだ…。
その想いはすっと胸の奥に収まった。
龍介の洗い晒しのシャツからは、温かなお日様の匂いと…微かな男の匂い…。
それが絹のまだ幼い官能を刺激した。

「絹…!」
苦しげに龍介がその名を呼び…そのまま逞しい腕が強く強く絹を抱きしめた。
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