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夜明けまでのセレナーデ
第9章 サンドリヨンとワルツを
「絹。もう大丈夫だ。安心しろ」
龍介は優しく絹の頰を撫でた。
そうして再び、野獣のように怒りに燃えた眼差しで僧侶に向かっていった。
「貴様…!許さねえ!俺の絹に乱暴しようとしやがって!
…殺す…!ぶっ殺す!」
襟元を掴まれた僧侶は、龍介の剣幕にやや狼狽しながらも嘯く。
「…は!やれるものならやってみろ。
僧侶を殺すと末代まで祟られるのだ。
お前にその勇気があるのか?
私の家は東本願寺の流れをくむ家柄だぞ?」
「東本願寺だが西本願寺だが知らねえが、生臭坊主が怖くて鰻が捌けるかってんだ!大馬鹿野郎!」
尚も殴りつける龍介に、絹ははっと我に帰り慌てて縋り付いた。
「もうやめて。もし殺したら…龍ちゃんが捕まってしまうわ」
「離せ、絹。俺は女を手籠めにするような卑怯なヤツは絶対に許せねえんだよ!」
龍介は僧侶の襟首を掴み、締め上げようとした。
「龍ちゃん…!」
その時、小屋の中に慌てて駆け込んだ者たちがいた。
絹の養い親の住職と、紫の法衣を纏った本山の大僧正であった。
絹は慌てて、はだけている着物の前を直した。
「き、絹さん!これは…!」
仰天する住職に、龍介が僧侶を突き出す。
「こいつが絹に乱暴しようとしたんだ」
大僧正の顔色が一瞬にして蒼ざめた。
「玄侑!そなたは!何ということをしでかしたのだ!」
大僧正の只ならぬ剣幕に、玄侑と呼ばれた僧侶は怪訝そうな貌をした。
「…婢女ひとりに手をつけたくらいで、大袈裟な…」
ふてぶてしく呟いた僧侶に、大僧正は怒鳴りつけた。
「この馬鹿者!
このお方は…絹様は、今上陛下のご落胤であらせられるぞ!
そなたのしでかしたことが表沙汰になれば、そなたの寺院など有無もなく取り潰しじゃ!
儂の貌にも泥を塗りおって!
さっさと頭を下げて姫宮様に詫びぬか!」
「…は、はあ…」
呆痴者のように口をぽかんと開け、大僧正に頭を床に押し付けられた玄侑よりも、絹は茫然として声も出なかった。
それは、龍介も同じだった。
「…じ、住職…。
今、なんて…?」
衝撃に撃たれている絹に代わり、漸く龍介が口を開いた。
「…大僧正が仰せられたことは、まことじゃ」
…そうして養い親は厳粛に居住まいを正し、絹の足元に跪き頭を深々と下げた。
「…今までのご無礼の数々、平にお許し下さいませ。
絹様は、皇帝陛下の真のお子様…。
衣都子姫宮様であらせられます」
龍介は優しく絹の頰を撫でた。
そうして再び、野獣のように怒りに燃えた眼差しで僧侶に向かっていった。
「貴様…!許さねえ!俺の絹に乱暴しようとしやがって!
…殺す…!ぶっ殺す!」
襟元を掴まれた僧侶は、龍介の剣幕にやや狼狽しながらも嘯く。
「…は!やれるものならやってみろ。
僧侶を殺すと末代まで祟られるのだ。
お前にその勇気があるのか?
私の家は東本願寺の流れをくむ家柄だぞ?」
「東本願寺だが西本願寺だが知らねえが、生臭坊主が怖くて鰻が捌けるかってんだ!大馬鹿野郎!」
尚も殴りつける龍介に、絹ははっと我に帰り慌てて縋り付いた。
「もうやめて。もし殺したら…龍ちゃんが捕まってしまうわ」
「離せ、絹。俺は女を手籠めにするような卑怯なヤツは絶対に許せねえんだよ!」
龍介は僧侶の襟首を掴み、締め上げようとした。
「龍ちゃん…!」
その時、小屋の中に慌てて駆け込んだ者たちがいた。
絹の養い親の住職と、紫の法衣を纏った本山の大僧正であった。
絹は慌てて、はだけている着物の前を直した。
「き、絹さん!これは…!」
仰天する住職に、龍介が僧侶を突き出す。
「こいつが絹に乱暴しようとしたんだ」
大僧正の顔色が一瞬にして蒼ざめた。
「玄侑!そなたは!何ということをしでかしたのだ!」
大僧正の只ならぬ剣幕に、玄侑と呼ばれた僧侶は怪訝そうな貌をした。
「…婢女ひとりに手をつけたくらいで、大袈裟な…」
ふてぶてしく呟いた僧侶に、大僧正は怒鳴りつけた。
「この馬鹿者!
このお方は…絹様は、今上陛下のご落胤であらせられるぞ!
そなたのしでかしたことが表沙汰になれば、そなたの寺院など有無もなく取り潰しじゃ!
儂の貌にも泥を塗りおって!
さっさと頭を下げて姫宮様に詫びぬか!」
「…は、はあ…」
呆痴者のように口をぽかんと開け、大僧正に頭を床に押し付けられた玄侑よりも、絹は茫然として声も出なかった。
それは、龍介も同じだった。
「…じ、住職…。
今、なんて…?」
衝撃に撃たれている絹に代わり、漸く龍介が口を開いた。
「…大僧正が仰せられたことは、まことじゃ」
…そうして養い親は厳粛に居住まいを正し、絹の足元に跪き頭を深々と下げた。
「…今までのご無礼の数々、平にお許し下さいませ。
絹様は、皇帝陛下の真のお子様…。
衣都子姫宮様であらせられます」