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夜明けまでのセレナーデ
第12章 夜明けまでのセレナーデ 〜epilogue〜
暁人は、今夜も縣家に泊まっていたのだ。
…興奮覚めやらず、暁人を片時も手放さない絢子に付き添い、客室用寝室で寝んでいるはずだった。

だから、二人はあの庭園で再会してからのち、まだ二人きりになっていない。
…もちろん、キスすらもまだだ…。

「何?何か用?」
扉を開けて仏頂面で対応する薫に気を悪くした風もなく、暁人は和かに微笑む。
「薫に会いに来た…」
…手を伸ばされ、引き寄せられる。
どきりとしながらも、その手を邪険に振り払い、背を向ける。

「…あれ…機嫌悪い?」
覗き込もうとする暁人を睨みつける。
「さっきの話だよ。
…何が人魚姫だよ!
記憶が戻らなかったら、お前はその人魚姫やらと結婚していたんだろう⁈」

…ああ…と、暁人がほっと息を吐いて笑った。
「焼きもちか…」

薫が熱り立つ。
子どものように足を踏み鳴らす。
「何が焼きもちだよ!
訳が分からないタイムスリップの話なんかで、誤魔化されると思っているのか⁈
お前は婚約寸前まで行ったんだろう⁈」

穏やかに腕を組み、暁人は首を傾げる。
「…あれ?でも、僕も同じような話を聞いたよ。
…薫、皇帝陛下の姫宮様と縁談があったんだって?」

ぎくりと頰を轢き釣らせ、薫はぎこちなく唇を尖らせる。

「…あ、あれは…母様がお節介を焼いて…絹さんをうちで預かっただけで…」
「へえ…。絹さんて言うんだ…。
…とても綺麗な宮様だったね。
光小母様に写真を見せてもらった」
「…⁈」
…あの鬼ババめ!余計なことを!
薫は胸の内で盛大に毒付いた。

…暁人の大きくしなやかな手が、再び静かに差し出される。
「…薫…。こっちに来て…」

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