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戦場に響く鈴の音
第8章 開戦
夕刻前…。
あれだけ派手に天音川周辺の全てを押し流していた土石流が徐々に収まり、天音川は単に濁っただけの川へと変化を見せる。
「笹川は居ますでしょうか?」
直愛が切羽詰まった声を出し武者震いをする。
今更になって怖気付いたか?
直愛の実戦不足は笑うしかない。
「オッサンなら居る。土石流から逃げた由の軍勢の中央にあのハッタリにしかならん槍が見える。」
「なるほど…、あれでは目印にしかなりませんね。」
余裕が出た直愛も引き攣った笑みを浮かべる。
「それより、俺の刀を知らねーか?」
「神路殿の刀なら腰に…。」
「ちげーよ…。黒崎特注の馬上専用の刀だ。」
「あの黒崎家紋の入った箱でしょうか?」
「それだ、それっ!持って来い。」
俺の命令で直愛がアタフタと走り出す。
兵が2人がかりで俺の箱を持って来る。
黒い漆塗りの馬鹿デカい箱…。
兵が箱の蓋を開ければ俺の愛刀が見えて来る。
「その刀は…?」
直愛が初めて見た刀に驚く。
双刃刀(そうじんとう)…。
真ん中に刀を握る柄(つか)があり、その両端から刃が生えた奇妙な刀は黒崎に代々伝わる刀である。
馬上での片刃は一方向しか切れぬ為、馬を旋回させながら戦うのが定石になる。
その為、馬上での武器はもっぱら万里のように正前の敵を討ち易い槍を持つ武士が多い。
黒崎の双刃刀ならば槍よりも軽く左右に対応可能な両刃がある故に馬の旋回の必要がなくなる。
これも黒崎の一門が作り出した刀であり、代々の領主だけが携帯する事を許される。
俺はまだ領主ではないが、もう戦場に出る事がない義父が俺に託した刀で俺が黒崎の嫡子という証にもなる。