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戦場に響く鈴の音
第8章 開戦
「黒崎の一族とは…。」
直愛が呟く。
まあ、単純に言えば発明家の一族とだけ説明する。
国を開拓した時から大河に仕えた一門…。
ここ最近は、あののんびりした義父の影が余りにも薄く、何故あんなのが筆頭老中なのかと言われる立場になってしまった。
それ故に俺に対する御館様の期待が厚い。
「まっ…、俺の代は雪南が居るから安心だけどな。」
他力本願な俺を直愛が苦笑いする。
「そろそろ行くぞ。」
斥候の騎馬は既に川岸に何本もの杭を打ち、そこに縄を結び対岸へと渡り始めている。
対岸に着けば馬の後ろに乗る足軽兵が更に杭を打ち、濁った天音川に簡易の綱が何本も張られた状況になる。
「考えましたね。」
須賀が感嘆の息を漏らす。
「これも雪南の考えだ。」
縄を手摺りのように張り巡らせば、増水しても馬が怯える事なく川が渡れる。
人も同じで川下へ流される心配がなく、蘇の兵は次々に由側の対岸へと渡って行く。
「雪南殿はそこまで…。一体、いつこんな事を思い付いたのですか?」
直愛が川を渡りながら聞いて来る。
「梁間の討伐前だ。」
「そんな時期に!?」
「シュミレーションって奴?もしも雪南が由なら西元をどうやって狙うかという方法をまずは考えさせた。」
「何故です?」
「梁間を討った後は西元城は完全に黒崎の物になる。つまり俺の持ち物って事になるからな。それを守る手立てを幾つか雪南と考えながら梁間討伐に来た。」
「そこまで考えて…。」
「燕から西元までの道のりが暇だっただけだ。口煩い雪南は考え事をさせれば静かになる。」
直愛が呆れた表情をする頃には俺達は対岸に着く。
今回は雪南が考えた由の攻撃パターンの一つが当たった為、その先を予想して俺と雪南は動いた。