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戦場に響く鈴の音
第8章 開戦
鈴の傷は癒えた。
今朝は黒炎から俺がいつ戻るのだと早馬が来てる。
雪南の機嫌はかなり悪い。
「神路っ!燕に帰れば鈴も寺子屋に行けるのか?」
執拗く鈴が聞いて来る。
「行けますよね?黒崎様…、燕までの道中で鈴に黒炎での礼儀作法だけを教えれば良いだけですし…。」
鈴を煽り、雪南は俺に燕へ帰れと迫って来る。
鈴は鈴で俺の手を握り、寺子屋に行きたいのだと瞳を輝かせて俺を見る。
「まだ茂吉の兵士訓練が…。」
「あれは幾ら訓練をしても無駄な時間にしかなりませぬ。」
「直愛が頑張ってるだろ?」
「その直愛殿も笹川を討った誉れの武将として、奥州は首を長くして帰りを待っておりますぞ。」
「えーっと…。」
言い訳を考える。
俺はこの夏を鈴と涼しい天音でのんびりと過ごしたいだけなのに…。
それを尽く雪南に邪魔をされ、当の鈴は寺子屋の為に帰る気満々で俺にしがみつく。
「それとも、この先は鈴を黒崎の御屋敷に閉じ込めて育てるおつもりですか?」
雪南が俺にトドメを刺す。
俺を黒炎に閉じ込める訳にはいかないと御館様は俺を寺子屋に通わせ、10を過ぎた時に黒崎の義父に俺を託すと決めた。
このタイミングを逃せば鈴を黒崎から出せぬ子になると雪南が言う。
「神路…。」
雪南の話を聞いた鈴が泣きそうな表情へ変わってく。
「わかった。わかったから…、燕へ戻る。帰る支度を始めろ。」
鈴を泣かすくらいなら俺はクソ暑い燕に帰る事を承諾するしかない。
俺の決断を聞いた瞬間
「神路っ!」
と叫ぶ鈴の唇が俺の唇に押し付けられる。
雪南が手で自分の目を覆い、はしたない鈴の行動にため息を吐く。
俺はただ、この程度でご機嫌になる仔猫を抱えて笑ってやる事しか出来なかった。