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戦場に響く鈴の音
第8章 開戦
「雪南に聞けよ。」
「雪南は神路に聞けと言う。鈴の主は神路なのだからな。」
そんな時だけ俺を主扱いするのかと鈴の身勝手な考え方には途方に暮れたくなる。
「だから…、あれだな。例えば火を消す方法として水をかける以外のやり方がある。」
「火は水をかけるか、息を吹きかけて消すに決まってる。」
「蝋燭(ろうそく)程度の火なら息を吹きかけて消えるが、焚き火になると息を吹きかければ逆に炎が大きくなるだろ?」
「確かに…。」
「だけど焚き火くらいの火でも、鍋とか被せて空気を遮断すれば炎は消えるんだ。」
「空気を遮断?」
「そう、それが化学ってやつ。後は地学や物理学があって、それ等をまとめて科学と言う。」
俺の適当な説明でも鈴は目を丸くしながら小さな手で俺の腹を揺すって来る。
「神路は習ったのか?科学を学んだのか?」
最近の鈴は表情が増えた分、好奇心が旺盛だ。
「寺子屋で基礎は学ぶ。そこから先は一門の中で突き詰める学問を独学で学ぶ事になる。」
黒崎の一門は学ならなんでもごされな一門。
その中でも蒲江家は科学でトップの研究をする一門になる。
「寺子屋…、そこへは鈴も行けるのか?鈴もそこに行けば科学を学べるのか?」
「お前はその前に礼儀とか学べ…。」
起き上がって鈴を抱え直せば鈴は平然と俺の頬に小さな手を当てて
「礼儀?」
と聞いて来る。
「そう、俺に対しては構わぬが直愛や雪南を呼び捨てにしたりしてるだろ?」
「神路もそうしてるじゃないか?」
「俺は主、鈴は小姓…。立場が違う。」
「駄目なのか?」
「駄目じゃないが人前では良くないな。」
「人前?」
「寺子屋に通うという事は人前に出るという事だ。」
俺が鈴の顔を撫でて、その可愛い頬に口付けをしようとすれば
「ご自分が黒崎の主であるというご立派な自覚があるのならば、そろそろ、その人前に出て頂けますか?」
と冷たい雪南の声が頭上から聞こえて来る。