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戦場に響く鈴の音
第9章 拝命
天音を出て、ひと月…。
馬に乗る俺と鈴の前には黒崎の屋敷が見えて来る。
「これが旦那のお屋敷か?」
訓練で馬に乗れるようにはなった茂吉が叫ぶ。
「雪南、茂吉は何処に寝かせるつもりだ?」
「茂吉は馬番の家に…。」
雪南の言葉を聞いた茂吉が目くじらを立てる。
「馬番の家に居候とかあんまりじゃないすか?」
「馬番の家は長屋になってる。庭番や台所番も皆がその長屋に家族で住んでいる。独り者の茂吉にはそれで充分だ。」
雪南の説教には流石の茂吉も逆らわない。
逆らえば、3倍返しの説教を喰らう。
口煩い雪南には言い返すだけ無駄なのだと鈴の真似をして茂吉までもが耳を両手で塞ぐ。
屋敷の門を潜れば雪南は茂吉を連れて馬番が住む長屋の方へと消えて行く。
「直愛は奥州の屋敷に戻らなくて良いのか?」
今回も俺の家までついて来た直愛に確認する。
「私は…、三男坊ですから…。」
直愛が微妙な表情を浮かべる。
兄弟が多い。
それは家督争いを生む。
その為に嫡子以外の子は切り離して育てられたり、養子に出される事もある。
三男なら奥州は直愛の凱旋を手放しで喜ぶ者ばかりではないのだろう。
直愛が梁間の目付けにと黒崎の領地である西元に出されたのも、その為か…。
奥州の腹を探るように俺は直愛を見る。
既に直愛は西元に出された段階で奥州に捨てられた子の扱いになっている。
俺が直愛にしてやれる事を考える。
俺に見える直愛の未来は奥州の利益になる家へ婿養子に出るくらいしか思いつかない。
「おかえり…、随分と遅かったな。」
屋敷の玄関に入れば呑気な義父の声がする。