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戦場に響く鈴の音
第9章 拝命



「おっ父っ!」


真っ先に鈴が義父へ飛び付く。


「こらっ!鈴、道中は屋敷や城に上がる行儀を雪南や直愛から学んだばかりだろ。」


足すら拭かずに屋敷に上がる鈴を叱る。


「神路、構わない。鈴、此度は本当にすまぬ事をした。この老体の謝罪を受けて貰えるだろうか?」


鈴を抱き上げた義父が鈴に問う。

それは黒崎領主としての言葉…。

黒崎に仕える兵がよりによって嫡子である俺が気に入らないからと鈴を傷付けた事に対する謝罪…。


「おっ父は何も悪くないぞ。」


鈴が不思議そうに義父を見る。

領主として自分の兵の躾が出来てない義父の謝罪の意味など今の鈴には、まだ理解が出来はせぬ。


「そうか…。」


苦笑いする義父が鈴の足を拭く。

領主であり、この屋敷の御館様である義父に足を拭かせてご機嫌な表情をする小姓はこの世で鈴だけだと俺はため息を吐く。

義父に汚れた足を拭かせた鈴は俺や義父に構わず俺の部屋へと駆けて行く。


「随分と変わったな。」


鈴に表情が増えたと嬉しそうに義父が言う。


「変化は表情だけではありませんよ。」

「…というと?」

「あの雪南が学を仕込んでますから…。」

「ほー…、ならば寺子屋に?」

「明日の登城にお付き合い願えますか?」


今回の凱旋はギリギリまで黒炎を待たせると決めてある。

前回のように宇喜多に横槍を入れさせない為だ。

義父も同席させ、大河には黒崎有りと見せ付けるには充分な凱旋の条件が揃ってる。


「こんな老いぼれがまだ必要か?」


義父はもう俺が領主を継いでも問題はないと言う。


「まだしばらくは現役で居て貰います。」


俺の立場を守る為だけに家督を譲ろうとする義父の気持ちは有難いが俺はまだ義父に領主として存在を示して欲しいと願う。


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