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戦場に響く鈴の音
第9章 拝命
その宇喜多の思惑を越えてしまう手柄を、この戦で直愛があげてしまった。
宇喜多と黒崎の思惑の乱れを御館様が制する。
「直愛、奥州でありたいか?」
御館様がゆったりとした声で直愛に問う。
「自分は黒崎様にお仕えする事で大城主の為に働きたいと望んでおります。」
最初から黒崎の家臣になる腹を括っていた直愛は落ち着いた物腰で御館様に答える。
「ならば風真として西元城主の座に治まる意思はあるのだな。」
「自分には勿体なき拝命ではありますが、日々精進して参ります。」
直愛の真っ直ぐな答えに御館様は満足そうな笑顔を俺に向ける。
始めから御館様はこれを望んでた。
俺に何も無いから…。
生まれも名も無かった俺を黒崎として認める事すら難しい大河家臣の中で宇喜多と黒崎の釣り合いを取るには直愛のように由緒ある一門の人間を俺に仕えさせる事が唯一の手段になる。
まだ俺は御館様の手の内に居るガキのままだ。
先を読む事に長けてると言われた俺よりも大成を見極め先を見てる御館様には敵わない。
「神路、風真 直愛の尊をお前に預ける。」
「はい。」
決定は下された。
宇喜多側ももう反論の余地がない。
政(まつりごと)とは、そうやって定められる。
相変わらずの秀幸は冷静な表情のまま、視線だけが鈴の方に向いている。
秀幸には今回の結果は予想済みだったという事か?
御館様の俺に対する甘さを計算すれば、奥州から直愛を取られるくらいの覚悟はあったのかもしれぬ。
黒炎は腹の探り合いの戦場なのだと何度か御館様から言われた覚えがある。
自分が欲しいと思う家臣を見極めろ。
戦場で肩を並べて戦える漢は限られてる。
それぞれの思惑が犇めき合う黒炎城の謁見の間で何かを期待するかのように金色に瞳を輝かせた鈴だけが異質な存在感をずっと放ち続けていた。