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戦場に響く鈴の音
第9章 拝命
「良かろう。ならば直愛は風真(かざま)を名乗るが良い。」
ご機嫌で手にしてた扇をヒラリと広げる御館様の鶴の一声に宇喜多家臣のざわめきが収まらない
「風真だとっ!」
無礼を承知でそう叫ぶ者まで現われる。
流石に御館様も眉を顰めて家臣達を窘める。
「息子に風真を名乗らせるのは不服か?奥州よ。」
黙ったままの俺の代わりに御館様が話を進める。
実際、俺自身も驚きを隠せない。
いや、この場でこの御館様の決定に一番驚いてるのは当人である直愛と義父の2人だと思う。
風真は義父の腹心だった漢の名だ。
李討伐の折、義父の代わりに御館様に仕えて戦に参戦した名代(なだい)の武将だった人物…。
御館様の身を庇い、由の兵に切られるという最期を遂げた風真には跡取りが居らず、一門は離散した。
風真は黒崎が大河に仕えた日から黒崎に仕えた一門。
蒲江よりも長く仕えた一門という事もあり、黒崎での絶対忠義の象徴でもあった。
直愛に、その名を与え新たに黒崎の名を継ぐ俺に仕えろと言う御館様の言葉を迂闊に軽んじる事など出来ない。
「御館様の良きままに…。」
青ざめた顔で直愛の父、直久が頭を垂れて一礼する。
これ以上の異を御館様に唱えれば、蘇に対する叛乱分子と言われても否定は出来なくなる。
俺の始めの思惑じゃ、直愛に手柄を取らせて宇喜多派の奥州にちょっとした恩を売るつもりだったが、御館様が今回まで奥州への褒美を待ったという事はちょっとやそっとの褒美で奥州は黒崎に恩を感じない程に宇喜多に尽くしてると見受ける。
しかも、直愛は三男…。
宇喜多の思惑じゃ、俺に直愛を与えて逆に黒崎に恩を売ろうという腹で前もって直愛を梁間の元へ送ったのだと思われる。