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戦場に響く鈴の音
第10章 遊郭



「さて、次は神路だな。黒崎としてではなく、お前自身が欲しいと望む褒美は何だ?」


城主の台座から立ち上がった御館様がゆっくりとした足取りで俺の前まで降りて来る。

俺の後ろに控えて座っていた直愛や雪南は更に頭を低くして臣下の礼を御館様に尽くす。

御館様は扇で顔を覆ってはいるが、その視線は興味深げに鈴の方へと向いている。


「前に御館様が登城させろと仰った者ですが…。」


俺は俺を見張るように取り巻いてる大河家臣達に向けて鈴の登城はあくまでも御館様の希望だったのだと晒してから話を進める。

そうやって周囲に伏線を引かねば、生まれもわからぬ卑しい黒崎の嫡子が、更に卑しい小姓を大城主である御館様の御前に出したと難癖を付けて来る輩が必ず現れる。

御館様が俺を守ったように俺は鈴を守りたい。

その為ならば俺は御館様を利用する。


「鈴、こちらに参れ。」


義父の後ろに控えて座ってる鈴に俺の横に来るようにと言い付ければ、作法のわからぬ鈴が迷った表情で俺の方を見る。


「大丈夫…、おいで…。」


御館様の前で俺はいつものように鈴を呼ぶ。

義父も笑いながら鈴に俺の傍に行けと促す。

直愛も雪南も笑ってる。

大城主である御館様も笑ってる。

ここは怖い場所ではないのだと小さな鈴の為に誰もが笑顔を作り、鈴の行動を見守る。

パタパタと小さな足音を立てて鈴が俺に駆け寄る。


「神路…。」


俺の着物を掴みすぐにでも俺の膝の上によじ登ろうとする仔猫の頭を押さえて俺の隣に座らせる。


「見ての通り、この子はまだ行儀に関する躾がなっておりません。ですが無礼を承知でお願いします。御館様より、この子に必要な学を与えて頂きたい。鈴の学は今、蒲江が個人的に見ております。」


御館様に鈴が寺子屋に通いたがってる事を匂わせる。


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