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戦場に響く鈴の音
第10章 遊郭
家臣の間では、再び違うざわめきが始まる。
「蒲江の…。」
雪南の神童伝説を知らぬ者は居ない。
飛び級で寺子屋の上級に上がり7歳で全ての学を修めた雪南は天音にある軍師育成の兵学校を僅か1年で卒業し、その後は蒲江の一門の中で独学に励みながら元服まで兵学校の講師をも務めたという逸材である。
その雪南が当時は俺の家庭教師までやってた事も有名であり、現在の鈴の家庭教師を引き受けてるとなれば、誰もが鈴の能力の高さを認めざる得ない。
普通なら5歳で入る寺子屋…。
初級は7歳まで、中級は10歳まで、上級を12歳から13歳で終わらせて各一門が持つ兵学校へと元服まで在籍する。
俺は雪南のお陰で12で兵学校を卒業した。
頭だけの雪南とは違い、俺は剣術で勝った為に飛び級は雪南よりも楽だったと言われてる。
鈴の剣術はかなり頼りないが学だけなら雪南に引けは取らぬ。
自信満々の俺に御館様が
「学の程度は?」
と問うて来る。
「その答えは蒲江より…。」
すまして、そう答えれば雪南がゆったりと頭を上げる。
「現在では中級並、3ヶ月もあれば上級へ上がれるだけの力は持ち合わせております。」
雪南も自信を持って御館様に答える。
俺達とは真逆に落ち着かない家臣達のざわつきが益々、激しくなっていく。
「鈴と言ったか?幾つだ?」
御館様が鈴の前で腰を屈めて聞く。
鈴はキュッと口を結び答えようとしない。
「鈴、御館様に聞かれた事はお答えしろ。」
鈴の行儀の悪さには苦笑いするしかない。
鈴は鈴なりに、この謁見の間の空気を感じてる。
周りの者が自分にとって敵か味方かの判断を鈴の感覚で見極めようと必死に戦っている。