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戦場に響く鈴の音
第10章 遊郭



胡蝶が悲しいのは胡蝶の傍に居れば居るほど、俺が不幸になると感じるからだ。

その状況に、ため息を吐けば雪南は


「早く戻って頂かないと直愛殿も困っております。」


と俺が帰る為の言い訳を胡蝶に示す。


「直愛が?」

「今日、明日にでも西元へ発ちたいのが本音なのに、肝心の黒崎様が戻らないので…。」

「西元はまだ築城中だろ?」

「それでも三の丸はそろそろ出来てる頃ですし、グズグズしてれば冬になりますからね。」


雪南は直愛の為なら俺が帰りやすいだろうと促す。

西元まで馬なら2週間、徒歩でひと月…。

今や風真となった直愛は自分の軍勢2万を奥州から連れて西元に向かう事になる。

秋の収穫に合わせて食料や城に必要な物を買い集めなければ冬を越すのが難しくなる。


「直愛殿には茂吉を同行させる予定です。」


俺の帰り支度をしながらも雪南が淡々と語る。

西元に不慣れな直愛よりも西元で闇商売をして来た茂吉の様な漢の方が物資集めは早い。

正直、茂吉はどうでもいいと俺が雪南を見れば、雪南は俺にトドメを刺す言葉を吐きニヤリと笑う。


「後は、鈴の寺子屋入門の準備もありますが…、黒崎様がやらないつもりでしたら私がやってやるしかありませんね。」


直に秋の入門が始まる。

鈴の手前、遊女遊びをしてる主のままで良いのかと言われれば


「わかった。帰る。」


と言わざるを得なくなる。

俺の言葉を聞いた胡蝶が目を伏せる。


「胡蝶、また来る。」


いつとは約束がしてやれない。

それでも胡蝶に無責任な約束だけを残してやる。


「お待ちしておりますわ。」


今にも泣きそうな笑顔で胡蝶はそう答える。

次の約束など期待しない、儚く消えそうな女が無責任で無様な漢を涙も見せずに遊郭から送り出した。


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