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戦場に響く鈴の音
第10章 遊郭



胡蝶を抱き締めて胡蝶の胸元をまさぐれば、胡蝶は少し嬉しそうに俺に笑いかけて来る。


「主様ったら…。」


呆れたような声…。

なのに幸せそうに笑う。


「今は…、お前と居たいからな。」


仮初の言葉でも胡蝶は笑ってくれる。

誰でも良かった。

人との繋がりが欲しかった。

過去の傷を舐め合うように胡蝶と互いの身体を舐め合って抱き合い交合う日々が過ぎる。

気付けば一週間…。


「そろそろお帰り願います。」


俺が寝てた床を跨ぐ雪南が俺の胸ぐらを掴む。


「胡蝶、なんで雪南をここに入れた?」

「主様のお迎えと言われたので…。」


胡蝶が苦笑いをする。


「他の男が来る予定があるのか?」


俺が不貞腐れてそう言えば胡蝶が答える前に


「胡蝶太夫に支払いは無くとも、妓楼への宿代はとんでもない事になって来ております。」


と雪南が先に答える。

胡蝶と俺の関係はそういう物なのだと雪南から一気に現実が突き付けられる。

泡沫の女房…。

胡蝶は座敷に呼ばれない限り遊郭から出られない女…。

その座敷でさえも燕で行われる物に限り、遊郭から見張り付きでしか出る事が許されない。

俺が妓楼に支払った金はあくまでも遊女という商品としての胡蝶本体の価格だけであり、座敷に呼べば出張経費は別で支払わなければならない。

だから胡蝶の妓楼に来たが、妓楼は遊女を置いてる部分以外は、あくまでも宿屋と同じ商売である。

胡蝶と僅かな時間を過ごす為には否が応でも宿代、酒代、飯代が加算される。

花魁である胡蝶太夫とは、そういう女なのだからと俺が自分を見失う前に雪南が俺を迎えに来る。

そして胡蝶は俺に悲しい瞳だけを向ける。


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