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戦場に響く鈴の音
第11章 報告
帰れば帰ったで、ため息が出る。
「鈴は?」
雪南にそう聞いても俺からそっぽを向きやがる。
「直愛と茂吉の出立を見送るくらいの礼儀はないのか?」
そんな嫌味を言えば
「主の躾がなってない小性ですので…。」
と仕返しを受ける羽目になる。
「まあまあまあ…。」
馬の用意をする茂吉を見ながら直愛が俺と雪南の諍いを宥めようと割って入って来る。
「鈴殿なら…、夕べのうちに挨拶はしましたから…。」
直愛が俺に気を遣う。
この屋敷を出た瞬間から直愛は風真となり、黒崎の一門という扱いになる。
「茂吉…。」
不慣れな直愛の水先案内人は茂吉だ。
「大丈夫っすよ。旦那…。今年の西元は米も山の幸も実りが豊かだと報告を受けとります。」
西元には裏商売での茂吉の配下が多い。
その為に西元での情報はいち早く茂吉の耳に入る。
茂吉が手に入れた情報でまだ築城中の西元でも直愛が不自由なく冬を越せると案に匂わせて来る。
最悪は黒崎が持つ天音川の利権を使えと茂吉だけには言ってある。
天音川には秋になれば春に放流した鮭が産卵に上がって来る。
稚魚の養殖、放流を研究してるのは蒲江の一門…。
豊富に上がって来る鮭は味噌漬けや塩漬けにされて蘇の民が冬を越す為に必要な保存食になる。
その莫大な利権目当てに由が攻め込んで来るというリスクはあるが先の戦で天音川の河幅が広がった事で今年の鮭は例年よりも大量に上がって来るはずだと蒲江からの報告を受けてる。
それらを自由自在に活用が出来る野盗上がりの商売人だった茂吉はお坊っちゃんなだけの直愛よりも頼りにはなる。
「羽多野の事を頼む。」
「わかってます。」
茂吉がニヤリと笑う。