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戦場に響く鈴の音
第11章 報告
馬の準備が整い直愛が何かを言いたげに俺を見る。
ここから西元まで直愛は大名行列で西元城へ入る事となる。
道中はあちこちに寄り道して西元の新城主は風真だと民に見せ付ける為に練り歩く。
「それでは…。」
直愛は別れの挨拶が苦手らしい。
言葉に迷い目を泳がせて俺を見る。
そうやって直愛がモタモタとする間に義父が鈴を抱っこして玄関先へと出て来る。
「直愛っ!」
義父から飛び降りる鈴が直愛の元へと駆けて来る。
「鈴殿…。」
直愛の表情が緩む。
出会った頃と違い鈴も随分と直愛に懐いた。
「西元は燕よりも冬が寒いと黒崎のおっ父が言ってる。炭や薪を3倍は用意しろって…。」
義父から学んだ事を小さな鈴が必死に直愛に伝える。
誰に対しても無関心で無表情だった鈴が直愛の心配が出来るくらいまで成長した。
鈴の言葉に直愛が感極まって声を詰まらせる。
「炭…と薪…ですね…。」
「うん…。」
歯を食い縛る鈴が力強く頷く。
その鈴の頭に直愛が手を置く。
「黒崎は風真 直愛として鈴殿にお願い申し上げます。黒炎でしっかりと学んで下さい。黒崎様の事を任せましたよ。」
ちゃらんぽらんな黒崎の嫡子の事を小さな鈴が面倒を見るのだと直愛が言い聞かせる。
「神路の事は鈴がする。」
後の事は直愛が心配するなと鈴が笑って言う。
多分、俺や直愛や雪南の前で初めて見せた本物の笑顔だ。
この笑顔に流石の雪南も目を見開く。
それは大輪の花が咲いたように美しい笑顔だった。
その笑顔を振り切るように背を向けた直愛が呟く。
「では、行って参ります。」
屋敷の門の向こうに直愛の大名行列の為に用意された3千の兵士が並んでる。
その行列の中へ直愛と茂吉が入れば、行列がゆっくりと動き出し直愛達の姿が掻き消される。